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Infiorarsi  作者: 影都 千虎
親友
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19

「それじゃあ、僕の名前を教えたところで、お兄さんたちの名前を聞いてもいいかな? ……いや、聞くと言うより確認になるんだけどさ。お兄さんたちはネロ・アフィニティーとクリム・ブルジェオンで合っているかな?」

 組んだ手の上に顎をのせてスメールチは言った。ネロは、無表情のスメールチがなんとなくニヤニヤと笑っているような気がして無性に腹が立った。殴りたい衝動に駆られた。ざっくり言うと、(こいつうぜぇ……)と思ったのだ。

「沈黙は肯定と見なしていいのかな? いやー、よかったよかった。無事に見つかったよ。スメールチって呼び捨てでいいよ。とりあえず、よろしく」

 無言のままの二人を見てスメールチは勝手に話を進めた。そして握手を求めるように、ネロに右手を差し出す。が、ネロはそれを無視した。代わりに、険しい表情でスメールチに問う。

「一体、君は何者なんだ?」

「『君』はやめてくれって言ったのにねぇ。もしかして、お兄さん、嫌がらせのつもりかな? いー性格してるねぇ。惚れ惚れしちゃうよ。

 さて、僕が何者かって話だけどね。さっきも言った通り、僕はただの商人だよ。この答えで不満なら、ブランテ・エントゥージアの友人の一人って言えばいいのかな?」

「ブランテの……!?」

「ああ。ブランテ君に出会ったのは三年前かな。前からトリパエーゼの紹介をされていてね。今回、フィネティアに取引先を探しに来たついでに来てみたのさ。つい最近都でブランテ君に再会して、君たちのことを聞いたんだ。この答えで満足かい?」

 相変わらず無表情だったが、話は信じられるとネロは思った。一方でクリムは険しい顔をしている。

「ヒヒ、お姉さんはまだ不満そうだねぇ? もしかして、『不老不死の魔女様』ってところが気になってるのかな?

 でもほんの少しだけでもいいから考えてみてくれよ。商人は、その土地の人に情報を得ないと上手く商売が出来ないんだ。何が売れるかとか分からないんだからね。ヒヒヒ、わかったかい?

 そうだよ。町の人から噂を聞いたんだ。あとはもう僕の勘になるんだけどね? お姉さんはどうもこの町の人とは格が違う気がしたんだ。お兄さんもなんとなく違うような気がするけど……お姉さんはそんなレベルじゃなかったのさ。これでその怖い顔をやめて、僕と仲良くお酒を飲んでくれるようになるかな?」

 考えてみろと言いながら、一切時間を与えずにスメールチは語りきった。ネロとクリムはそんな無表情でよく喋るスメールチに戸惑ったが、ブスッとした顔で飲むのもなんなので表情を和らげることにした。そして、話をしながら夜を過ごすことにした。



 注文した料理(つまみ)を食べながら、スメールチは何度か頷いた。無表情であるため、それが美味しいからなのか、この国の味を調べるためからなのか、ネロにはさっぱり分からない。

「いやぁ、これは毎日通いたいブランテ君の気持ちがよくわかるよ。僕も通いたいぐらいだ。いや、むしろお兄さんを嫁にほしいくらいだ」

「……そりゃ、どーも。嫁にはいかないけどな」

 どうやらお気に召したようだった。流石に気に入りすぎではあるが。

「ねえ、お兄さん。ちょっと僕とお仕事の取引をしてくれないかな? 大丈夫、品質は保証するよ。お兄さんが望むなら産地直送だって構わない」

「仕入れの話か? そんなに量を入れないからこの町で間に合ってるんだけど……」

「量が少なくていいなら尚更取引したいところなんだけどな。んー……僕と組んでくれたら、大体この辺のお酒がこういう値段になるんだけど……ダメかな?」

 そう言いながらスメールチはどこからか取り出した紙にペンで何かを書き始めた。そして書き終わったそれをネロに手渡す。

 紙に書かれた値段を見てネロは目を見開いた。トリパエーゼで買うよりも断然安い。輸入品の値上げによる悩みが完全に取り払われるような値段だった。

「本当にこの値段か?」

「時期とかで多少の変動はあるけど基本はそのくらいだよ」

「これで本当に質がいいなら、こっちが頭を下げてお願いしたいくらいだよ」

「じゃあ交渉成立ってことだね。どうする? 欲しいものがあるならすぐにでも仕入れてくるけど」

 そこから二人の仕事の話が続いた。どちらも嬉しそうである。勿論、スメールチは無表情だが。

 そんな二人の様子を見て、クリムは一つの疑問を抱いた。そしてすぐにぶつけた。

「どうしてスメールチさんは交渉に必死だったの?」

 ネロにこだわる必要はなかったはずだ。それほど品質がよくて値段が安いのなら、取引先はいくらでもあるはず。

 そんな質問にスメールチはやはり無表情のままで、しれっとして答えた。

「ここに通う口実が欲しかったんだよ。ヒヒ、恥ずかしいなぁ。どうやら僕の胃袋はお兄さんにがっちり掴まれてしまったみたいでね。ブランテ君の言う通りだったよ」

「…………」

 ネロにとって、嬉しいようなそうでもないような、微妙な答えだった。きっと女だったらこのスキルがフルに生かせて男のハートを掴めたのだろうと思い、そっとネロはため息をついた。なんとなく、男に生まれたことを後悔した。性別は後悔しようがどうしようが、自分で決められるものでは無いのだけれど。

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