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家につくとネロは二度寝をすることにした。二日酔いだが前ほど酷くはない。体のあちこちがまだ痛いが動けないほどではない。だから店を開けようと思ったのだ。なにもしないで延々とブランテの心配をしているよりはましだろう。それは女々しすぎる。
ブランテのマントはネロの部屋にかけておくことにした。ハンガーで吊るしてシワができないよう配慮する。
「あのバカ、向こうの女王をナンパしなきゃいいけど……」
流石にそんなことはしないかと思いつつネロは苦笑しながら呟いた。なんでも、シャンテシャルムの女王は絶世の美女らしい。ブランテがいつだか興奮ぎみにそんな話をしていた。
「まあいいや。寝よう」
そのままネロは後ろ向きにベッドに倒れこんで目をつぶった。案外早く睡魔はやってきてネロを夢の中へ連れていった。
◇
あまり十分に寝たとは言えない時間がたってからネロは起こされた。
「ネロ! ネロってば!」
珍しく取り乱してしまっているクリムに。寝ぼけた思考でいつ帰ってきたんだろうと思いながら、ネロはゆっくりと身を起こす。二日酔いはなおっていなくて頭痛がした。やはり体もまだ痛む。
「……おはよう?」
「なんでそんなに呑気なの!?」
とりあえず挨拶をしたら凄く怒られた。理不尽だとネロは少し凹む。が、クリムの今にも泣きそうな顔を見て気持ちを切り替えた。ボケていた頭も覚醒する。
「何があった?」
真剣な表情で尋ねると、クリムは一枚の紙をネロに渡した。それは数時間前に既にネロが読んだものだった。
「ブランテが戦争に行くって……!」
クリムが泣きそうな顔で取り乱している理由がわかってネロは「ああ」と納得したような声を出した。それがクリムには気の抜けた返事のように聞こえたらしく、ネロを強く責め始める。
「なんでそんなに興味無さそうなの!? 二人は親友って……」
「……はい。これ」
つかみかかってきたクリムにネロは頬をかきながらブランテの家の合鍵を渡した。不意をつかれたクリムはキョトンとした顔でネロに鍵の説明を求める。
「ブランテの家の合鍵だよ。そんなに心配なら行ってくればいい」
淡々と、出来るだけ感情を殺してネロは教えた。それからそっぽを向いて凄く小さな声で呟くように「俺はもう行った」と付け加えた。
ネロの答えに脱力してしまったクリムは鍵を返してベッドに腰掛けた。取り乱してしまったことが恥ずかしいのか、ネロと目が合わないよう天井を見つめている。
「……待つしかないよ」
「……そうみたいなの」
「短期間で何度も人を心配させる奴だ」
「これを期にブランテ離れでもしたらどうなの?」
クスクスとクリムは笑った。俺は親離れできない子供か、と突っ込みたいネロだったが、正にその通りだったのでなにも言わずに苦笑を漏らした。




