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◇
朝。ネロは頭を襲う鈍い痛みで目が覚めた。ついでに体の節々も悲鳴をあげている。クリムの治癒魔法の副作用はまだ続いていた。
(あー……二日酔いだ……)
頭を押さえながら体を起こす。そこで初めて自分がブランテと飲んでいる最中で寝てしまったのだと分かった。グラスが無いのを見て、片付けてくれたブランテに心の中で感謝する。
「……ん? マント?」
ばさりと何かが落ちた音がして、後ろを振り向いてみると床にブランテ愛用のマントが落ちていた。寒くないようにとブランテがネロにかけていったものだ。洗って返せばいいかと、ネロは怠い体を動かしてマントを拾う。
洗面所に行こうとして再びカウンターの方を向くと、一枚の紙が目に留まった。ブランテが残していったものだろうか。そう思いながら紙を手にとって内容に目を通す。
「…………ッ!」
一行目を読んで、ネロは目を見開いた。そしてブランテのマントを乱暴に放り投げると、紙を握り締めて店を飛び出した。全力で走ってブランテの家へ向かう。
「嘘だろ……ッ!?」
泣きそうな顔でそう呟きながら、ネロは紙の内容が嘘であることを祈った。
◆
『ネロへ
悪い、シャンテシャルムに行くことになった。戦争の裏で動けって王様の命令だ。都に行く仕事はどうやら俺を試していたみたいだ。そんで、俺は合格したらしい。
命令の内容は、向こうの女王に此方の要望を突きつけて必ず頷かせることだそうだ。気は進まないが俺には拒否権が無かったらしい。笑えるな。
そんなわけで暫く帰れない。目標を達成するか戦争が終わるまで、俺は帰れないらしい。出来たらちょくちょく手紙でも送ってやるから心配すんな。お前は俺が大好きだもんな。
本当は直接言いたかったんだが、なかなか言えないもんだな、これって。ナンパマスターにあるまじきヘタレ具合だ。
マントはお前に預けとく。向こうに持ってってボロボロになるのも嫌だしな。だから汚すなよ?
ブランテ』
◆
ブランテの家につく。合鍵でドアを開けると、ノックもせずに勝手に中に入った。手でドアを開けるのことすらもどかしくて、思い切り蹴飛ばしてしまったが気にしない。むしろ乱暴な開け方をしたことを怒ってくれ。今ここで。そう願いながらネロは家の奥へ向かう。ブランテの寝室がある方だ。
そこにはブランテの姿は無く、代わりとばかりに紙が一枚置かれているだけだった。
『だから心配すんなって』
紙にはその一言だけが書かれていた。まるで、ネロがここに来ると分かっていたような感じだ。親友の行動なら読めるのだろうか。
ここまでくると心配する気持ちよりも、ブランテの思惑にはまってしまったことの恥ずかしさが勝ってくる。
「……バカブランテ」
不機嫌そうに、しかし口元は少しだけ笑いながらネロはそう呟いてブランテの家を後にした。




