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少しふらついた足取りでカウンターに向かうと、ネロはカクテルを作る準備を始めた。一通りの準備が終わると、ネロとカウンターを挟んで向かい合うように座っていたブランテに笑顔で話しかける。
「今日は貸しきりだよ。タダ飯でいい。好きなだけ飲んで食え」
「マジで?」
「ああ」
「そうかそうか」
ブランテは鼻歌混じりにメニュー表(クリム作)に目を通す。タダと聞いて、普段とは違うものを頼む気になったらしい。
ブランテがネロに注文したのは、それから少し経ってからだった。
「そんじゃあ、とりあえずバーニャカウダ二人前。そんで、一緒に飲もうぜ、ネロ。今日は俺だけなんだろ?」
こっちに座れと言わんばかりに自分の座っている席の隣の椅子を軽く叩いてブランテはネロを誘う。
「……いや、ごめん。俺、前に飲んだときひどい二日酔いに襲われたからしばらく飲まないことにしてるんだ」
少し悩んでからネロはブランテの誘いを断った。しかしブランテは諦めない。どうしてもネロと飲みたいらしい。
「そんなに飲まなきゃ大丈夫だって」
「俺まで飲んだら売り上げが……」
「元々お前はその辺あんまり気にしてなかっただろ? ……それとも、俺と飲むの、嫌か?」
「…………」
最後の『嫌か?』でイケメンの反則的な表情を見せられネロは折れた。特に断る理由が無かったことも折れた原因に含まれる。
ブランテと飲むことにしたネロは、とりあえずカクテルを二人分作ると、客席側にある椅子を調理スペースに持っていってブランテと向かい合う形で座った。
「なんだ? 俺の隣には座ってくれないのか?」
「そっち側に座ったらカクテルが作れないだろ?」
そう言って笑ってから二人は軽く乾杯をしてカクテルを一口飲んだ。
◇
「ネロってさ、一応ハーフなのにその欠片もないよなー」
「余計なお世話ら、バカ」
どうでもいい話をしながら二人は酒を飲む。ブランテのペースにつられてネロもどんどん飲んでしまい、呂律が怪しいくらい酔ってしまっている。既に『だ』が言えていない。
「ネロのお袋さんって何だっけ、ヴァンパイア?」
「あー、確かそんら感じ……」
「本当にその欠片も無いな……っておーい、ネロ?」
「うーん……」
「……だめだな、こりゃ」
テーブルに突っ伏してしまったネロを見てブランテはため息をついた。こうなったら朝まで起きないことをブランテは知っている。
仕方なくブランテは飲むのを諦めると、グラスやシェーカー、包丁など洗い物をしとりあえず適当に棚に仕舞った。それからマントを毛布がわりにネロに掛けてやると、置き手紙を書いて店を出ていった。
「じゃあな」




