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少しだけ考えるような素振りをみせてから、自分が話そうとしていた内容を思い出したのかブランテは再び語り出した。不安を覚えながらもネロは黙ってそれを聴く。話を遮る理由がないからだ。
「ゾンビの話に戻るな。
俺はあのとき、家の中にいたんだ。で、騒ぎを聞くまでモンスターに気付かなかった。こんなことが仕事中にあったら、間違いなく死んでただろうな。……うん、わかっただろ? 気付くための要素が無かったから俺は分からなかったんだ。つまり、ゾンビに魔力はいらねえってこと。シャンテシャルムがそんなものを作る必要は無いと思ってるから……後は、お前の考えと同じだ。
搾り取った魔力は多分、エネルギーとして使われてるんだろうな」
最後の方だけブランテは無表情から悲しそうな表情に変わった。犠牲となったモンスターを思ってのことなのかはネロには分からない。
「……これ以上は反逆とか非国民とか言われてしょっぴかれそうだからやめとこうか、ブランテ」
それだけ聞ければ十分だったのか、ネロはブランテが何かを言おうとするのを遮って無理矢理話を終わらせた。別に、盗聴されているわけではないのだから無闇に他人に話さえしなければ咎められることは無いのだが。
しかしブランテの方も話を続けるのは嫌だったらしく「……そうだな」と軽く微笑んでこの話題を終わらせた。
「そんなことよりもブランテ、どうして都にいくのに二週間近くもかかったんだ? 鉄道は使えるわけだから三日もあれば十分な筈なんだけど」
フィネティアは小さい国ながらも交通の便をよくしようと鉄道が発達している。その線路は当然トリパエーゼにもあるわけで、トリパエーゼから都までを五時間で繋いでいる。馬に乗って行きでもしないかぎり、二週間とは考えられない日数なのである。
その問いにブランテは「ああ、それなー」と頭をかきながら少し困ったように答えた。
「変な客でさー、鉄道を使わずに馬でいくって聞かなかったんだ。だから一週間かけて行きは馬。それから向こうでちょっと過ごして、鉄道で帰ってきた。昨日、お前がジェラルドとやり合って倒れて少ししてから帰ってきたんだぜ、俺」
その口調はいつもの軽い調子が含まれていた。顔も困ったような感じではあるが笑っていて、ネロはそこに安堵する。やはりブランテはこうでなければ。
「全くなんだったんだろうな、あの客。鉄道酔いでもすんのかな」
「そうかもしれないね。あるいは相当な馬至上主義か」
「ははは、あり得る」
「どちらにせよ変人だね」
そう言って笑うと、ネロは重い体をゆっくりと持ち上げ始めた。ブランテが慌ててそれを止めようとするが、ネロはそれを拒んだ。
「一日中絶対安静なんてしてられるわけないよ。もう十分寝てたみたいだしさ。そんなことよりもブランテ、飲みたいんじゃない?」
その顔は少し痛みに耐えているようでもあったが、ブランテは親友の気遣いに素直に甘えることにした。




