07
「ええっと……」
珍しくブランテが困惑した表情を見せる。いつも飄々としているブランテでも、目の前の可愛らしい子犬にはどうしようもなかったようだ。
「ガルム……だよな?」
「ガルムなの」
「……なんで子犬?」
「それは……」
そこでクリムは困ったように視線をさまよわせる。そのしぐさから、実はこれはクリムの優しさで、普通のガルムを作ってしまったらネロの家が無事では済まなくなるとか、万が一暴れた時のリスクを考えての結果だったのかもしれないとブランテは想像した。もしそうだったとしたら、自分はなんてことをしてしまったんだとブランテは自分を責めた。
一方、そもそもガルムを詳しく知らないネロはというと、
(ああ……犬って癒されるな……)
と、勝手に癒されていた。できることならガルムを思い切り撫でまわしたかったのだが、生憎今ネロの身体はあまり動かない。立ち上がることすらできないのだ。これではガルムに近づくことすらできない。仕方なく、撫でるのは自分が復活してからのお楽しみということで妥協して、ネロはガルムの名前を考え始めた。飼う気満々である。つまり、ブランテとクリムのやり取りには全く無関心だった。
「……その、私、子犬以外のガルムを見たことがなくて……」
恥ずかしそうに視線をそらせるクリムを見て、ブランテはそれが決して冗談などではないと判断した。色々と余計なことを考えてしまった自分が恥ずかしく思える。ナンパは恥ずかしくないのに、こういうときは無駄に恥ずかしくなってくるブランテは変なところでピュアなのだろう。
「私は、一度見たことのある動植物しか創れないの……想像だとこんな感じになっちゃって……」
光をほとんど失った魔方陣にクリムが再び手をおく。するとまた魔方陣が光を放ち始めるが、今度はクリムは黙ったままだった。
ガルムのときと同じように光が段々消えていく。そして、クリムが創った生物が顔を出した。
「……クリム、これは……?」
「…………」
「流石にこれは酷いと思うぞ、お嬢ちゃん……」
「……自分でもわかってるの」
ずっと険しい顔をしていたロドルフォすら口を出さずにはいられなかったそれを見てクリムはガックリと肩を落とした。
何故か常に左を見続ける三つの顔、平べったい胴体、一直線に並ぶ四本の足、背中から生えた顔だけのやけに丸い蛇。体長が二十センチにも満たない小さくて奇妙なそれが四人の視線の先にいた。
「えーっと、クリムちゃん。ちなみにこれは……?」
一応その生命体がなんなのか聞いてみる。なんのつもりだったのか、創ろうとしていたものと出来上がったもののイメージがとてもかけ離れたものであったとしても絶対に笑わないでいてやろうとブランテは心に固く誓った。
クリムは恥ずかしいからかなかなか口を開こうとはしなかったが、沈黙に耐えきれなくなったのか、やがてその重々しい口を開く。
「……ケルベロスって、知ってる? 見たことはないんだけど、聞いたことはあったからそれのイメージで創ったの」
ネロは目を丸くした。ブランテは右頬の内側を噛みちぎれるほど噛んだ。ロドルフォはとりあえず近くにあった紙で、ケルベロスがどんな生物だったか自分のイメージで描いていく。
「ふむ……」
描きあがった絵をまじまじと見ると、ロドルフォはこっそり描いた絵をぐちゃぐちゃに丸めてポケットの中に突っ込んだ。どんな絵が出来たのか言うまでもない。




