03
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「か……あ……ッ」
二人の喧嘩はそう長く続かなかった。筋肉ダルマと表現されても納得のできる真っ黒な巨体は、白くて細いバーテンダーの首を片手で掴んで軽々と持ち上げる。
ネロは必死に首を締め上げる手を外そうともがいたが、ダメージを受けて力の抜けた手ではビクともしなかった。脳に酸素が回らなくなり、視界が段々狭く暗くなっていくのを感じる。
「ブランテがいないときに悪かったなァ、所詮お前は用心棒がいなきゃなぁんにもできねェって知ってたけどよォ! ヒハハッ弱すぎるぜネロちゃん!!」
「ふく……は、……って……よ……」
「何言ってんのか全くわかんねェなァ!!」
「ぐうッ……」
「ふくらはぎ刺されて痛がってたの誰だよ」とネロは笑い飛ばしてやろうとしていたのだが、逆効果となり腹を殴られ、自分で自分の首を絞める結果に終わった。そういえばここ一年、何故ジェラルドがぱったりと来なくなったのか疑問に思っていたのだが、ジェラルドの煽りでブランテがいたからだと納得した。それと同時に、ジェラルドの言う通りブランテがいなければ何もできないという自分が恥ずかしくなってくる。
首を絞める手に更に力が入った。ネロは抵抗を諦めて、さっさと意識を手放してしまおうと目を閉じ始めた。
「なにやってんだテメェらァ!!」
が、それはジェラルドの後方から聞こえた怒鳴り声によって妨害された。声から誰が来たのか予測しつつ、忌々しげに舌打ちをしながらジェラルドが後ろを振り向くと、そこにはものすごい形相でこちらに走ってくるロドルフォがいた。その姿には、騎士団だったころの面影がある。
ロドルフォが加わってしまっては勝ち目がないと、ジェラルドは大人しくネロの首から手を離した。文字通り離したので、ネロは乱暴に地面に落とされる形になる。
「ジェラルド。テメェのやりたいことは分かる。が、やっちゃいけねぇこともあるってわかってるよなぁ?」
「黙れハゲ」
ジェラルドのストレートな一言で、ロドルフォは今のジェラルドに圧力をかけても無駄だと悟りため息をついた。そして、感情を抑えた静かな声で一つだけ言った。
「お前が妹を想う気持ちも、魔女を憎む気持ちもわかる。が、今お前がやってることは単なる八つ当たりだ。少しは大人になれ……」
「るっせェんだよ!!」
果たしてそれに効果があったのか、それとも逆効果だったのかはわからない。が、一先ずジェラルドをこの場から遠くへ行かせることには成功したようだった。それに安心してロドルフォは自分をここに呼んだクリムを呼ぶ。
「もういいぞ。……ネロを家に運んで、手当でもしてやれ。そんで、全部終わったら俺んとこに話に来い」
ロドルフォはそれだけ言ってネロに駆け寄ったクリムに背を向けた。クリムが魔女であることを知っているはずなのに何も言わなかった、その背中に感謝をしつつクリムはそっと花畑でテレポートさせた時と同じようにホウセンカを使ってネロを室内へ運んだ。




