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パニーノを食べ終わって紅茶も飲み干すと、ブランテは先ほどロドルフォとの会話に出ていた花についての質問をすることにした。クリムに関することなら、今現在同居している奴に聞いたほうが早い。ネロはその質問に対しなんでもないようにあっさり答えた。実はその答えは問題なのだと知らずに。
「庭から持ってきて植えてるんだってさ。ブランテとロドルフォは見たこと無いだろうけど、クリムの家の庭……なのかな、すごい広い花畑があるんだ」
ネロは叶うことならもう一度あの花畑に行きたいと思っていた。しかし、彼はとんでもなく方向音痴である。あの花畑にたどり着いたのだって偶然だったのだ。次にあの山に登った時はおそらく遭難するだろう。ネロはなんとなくそんな気がしていけないでいた。おまけに今はあの山を越えた先で戦争をしているのだ。気軽に行けるわけがない。
「おい……ちょっと待てネロ」
呑気なネロが気づかなかった問題にブランテは気づいた。いつの間にか顔から笑顔が消え深刻な顔になっている。
「お前、クリムちゃんに危ないからって遠ざけた場所に行かせてるのか?」
それはネロも聞いたことがないような低い声だった。それに怯んだこともあり、ネロは押し黙る。ネロは好意のつもりで家に戻ることを許可していたのだが、それが危険なことだとあまり考えていなかったのだ。しかも、クリムが家に戻っていたのはモンスターによって町がめちゃくちゃになる前からである。ネロの頭が完全に平和ボケしていたと露見した瞬間であった。
しかし、ブランテが真剣に深刻に考えている点はそこではなかった。ブランテは、やはりいくらなんでも花が多すぎるという点に着目していた。
確かに、『庭の花畑から持ってきた』というのは都合のいい理由だろう。しかし、花を持ってくるには限度がある。切り花ならまだしも、道に植えるための花である。それをもって山を下りここまで来るのに相当な労力が必要なはずだ。ネロの言い方からネロは手伝っていないことがわかる。おそらく、ほかの誰も手伝っていないだろう。この短期間でクリムにそこまで友好的な人間はブランテとネロぐらいしかいない。ナディアやロレーナはまだそんなに仲が良くないだろう。花は分けてくれても、運ぶことはしないはず(これはブランテの勝手な憶測であり、実際はどうかわからないが)。それに、ナディアだったら店の花を使えと言うはずだ。すると、クリムは一人で花を運んだことになる。クリムの言ったことを信じるとしたらだが。
そんなことがあの少女(年齢不詳)に可能なのだろうか? いくらなんでもこの量はこの短期間では無理ではないだろうか。町の修繕が終わるころにこの状態だったなら、ブランテはクリムが言ったその理由で納得しただろう。しかし、修繕はまだ半分も終わっていない。
道端で咲き乱れる花に目をやる。道沿いにずっと続く花の列は一体この道のどこまで続いているのだろうか。視力が二.〇のブランテが見る限りでは花の列の終わりは見えない。ずっと目に優しい植物の色が続いている。
今はこのことをネロやロドルフォに話すつもりはないが、近いうちに本人には聞かなければならない。ブランテはそう考えた。
◇
親友とは恐ろしいもので、ブランテは何も言わなかったがネロはブランテのただならぬ様子から何かを感じ取っていた。そして、行動に移すことにした。
夜に働くバーテンダーのネロにとって、午前中も起きているのは辛いことだ。しかし、どうしてもブランテの様子とクリムのことが気になって睡眠を犠牲にすることにした。クリムはいつも午前中に家に戻っているのだ。午後に活動を始めるネロに気を使っているのかもしれない。そんなクリムをネロはこっそり尾行することにした。罪悪感に襲われるが、これで何もなければブランテに「なにもなかった」と言えるし、なによりこのモヤモヤとした気分をすっきりさせることが出来る。
ネロは以前迷子になった山に足を踏み入れた。尾行しているから今度は迷子にならないと信じて。




