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Infiorarsi  作者: 影都 千虎
少女
2/76

02

「ペル・メルっていったっけか」

 カクテルグラスを空にするとブランテは言った。パニーノを作りながら、ネロは「そうだけど、どうかした?」と答えた。どうかした? という言葉が何故か白々しく響いているような気がする。恐らく、ネロはブランテが次に言おうとしていることが分かっているのだろう。二人の仲は、それぐらい長く深いものなのだ。そして、ブランテもまた、ネロがわかっているということに気付いている筈だ。それでも敢えて二人は言葉を交わす。無言で居られる関係というのは素晴らしいものだが、それでも二人は会話を尊重したいようだ。

「予想以上に旨いからさ、作ってみようかと思うんだ。どうやって作ってんの?」

「んー?簡単だよ、ドライ・ベルモットとスイート・ベルモット、それからドライ・ジン、クレーム・ド・ミント、オレンジ・ビターズをステアするだけ。……はい、パニーノお待たせ」

「お前、実は教える気全く無いだろ……ところで、ステアってなんだ?」

「はははっ、ブランテは結局俺に作らせるからな。ステアって要は混ぜるって意味。しっかり混ぜるとステアで、軽く混ぜるのがビルド」

「へえ……」と、自分で振った話題を適当に流しながらブランテはネロから受け取ったパニーノにかぶりついた。そして、「ところでさぁ」とブランテは次の話題を振る。

 ネロの作ったカクテルを飲みながら下らない雑談を交わして夜を過ごす。これが、酒を飲める年齢になってからの二人の日課である。ブランテがネロのカクテルを飲まない日はよほどのことが無い限り訪れない。そんなレベルでこの日課は定着していた。



「買い出し? なんで?」

「なんでって……材料がなきゃ店出来ないし……」

 賑やかな昼の町を、ブランテとネロは並んで歩いていた。道に沿って店が並び、色とりどりの野菜や果物、質の良さそうな肉や、種類豊富なチーズなどが売られている。二人が住むこの町は、山の中にある田舎であるため海産物は殆ど出回らない。その代わりに肉や野菜が良質低価格で売られている。

「でも酒以外のものが多くないか?」

 買うものが書かれたメモを眺めてブランテは抱いた疑問を口にした。確かに、メモに書かれているのは酒類などカクテルに使いそうなものよりも、ロゼッタやグリッシーニなどのパンや、サラミや生ハム、チーズなど食べ物の方が圧倒的に多い。

「だってつまみの要望が多いから……」

 少し口を尖らせてネロは言った。二人とも歳は二十歳を超えているのだが、まだまだ仕草に子供っぽさが残っている。

 言い訳のように言うネロに、ブランテは一言「この店では取り扱わないって、言うか張り紙をすれば済む話じゃないのか?」と、一刀両断した。当然ネロは言葉を詰まらせた。ブランテの言っていることがその通りだったのだから仕方ない。別に、ネロは強制されているわけではないのだ。そんなネロに追い討ちをかけるようにブランテは更に言った。

「なんだかんだ言って、つまみを作るの楽しくなってんじゃねえか」

 ネロは何も答えなかった。その代わり、耳を赤くした。分かり易い男である。つまりこれは肯定だな、とブランテが満足げに笑みを浮かべた。こうして彼の夜の胃袋の平和は守られているのである。多分、この先もずっと。二人が決別でもしない限りは。


「……なあ、このハーブは何に使うんだ?」

 ハーブを売る店から購入した物を持ってでるとブランテはそう言った。買い物をしている最中は何も口出しをせず、いやな顔一つせず荷物持ちをするとはなかなか従順な男である。

「何にって……聞いてなかった? ハーブティーにだけど」

 口よりも体を動かして早く買い物を済ませてしまいたいネロはそれだけ答えた。きっとブランテは『何故バーなのにハーブティーが必要なのか』という事を聞きたかったのだろう。しかし残念ながらネロはそれ以上ブランテの疑問に対して何も答えようとはせず、すぐ近くにあるパン屋の中へ入って行ってしまった。荷物持ちを任されているブランテは、仕方なく疑問の解明を諦めて、任された仕事を全うすべくパン屋へ入っていった。

 ブランテがパン屋に入ると、入ってすぐのところでネロが立ち止まっていた。

「…………あ」

 その表情は驚いているようにも見える。ネロの目線の先には、ネロに凝視されて迷惑そうな顔をする銀髪碧眼の少女がいた。

「私の顔に何かパンくずでもついていますか?」

 少女はネロにそう尋ねた。つまり凝視するなと言いたいのだろうけれど、試食でがっついたのか実際に口の端にパンくずがついているのをブランテは見逃さなかった。しかし、失礼になる気がして言い出すことは出来ない。更に、ネロの様子からブランテは彼女がネロの一目惚れの相手であるということを察していた。だから、余計に下手なことは出来ない。どうしたものか、とブランテは頭を捻らせるが日々女の子をナンパしているせいか気の利いた一言が口から飛び出すことはなかった。

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