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Infiorarsi  作者: 影都 千虎
少女
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「……!? モンスター!?」

 フィネティアは騎士の国だ。魔術を使うものは異端者として迫害され、最悪捕まってしまう。フィネティアの歴史が国にそうさせていた。だから、フィネティアに当然モンスターはいない。その筈なのに、何故かトリパエーゼの町に赤く目を光らせた真っ黒なモンスターがいて、人々を襲っていた。目的がなんなのか、人々には当然わからない。ネロも例外ではない。ただ、『魔術の国シャンテシャルムと戦争をしている最中である』という点を思い出すことができれば、どうしてこんなことになったのか容易に想像できるだろう。その想像が果たして正解なのかどうかは別に考えなければならないが。そもそも、今まで平和だったほうがおかしかったのだ。

 モンスターに襲われた時の対処法なんて平和ボケした町の人たちは知らない。騎士団であればいくらか戦えただろうが、当然彼らは今ここにはいない。戦う術を知らない町の人たちは襲われて、悲鳴をあげて、助けを呼ぶ。それだけだ。当然、その行為は悪循環を生む。悲鳴が上がれば野次馬は増える。助けを呼ばれたら尚更だ。そうやって増えた野次馬はなにもできず、被害者となる。そうやって地獄絵図は成り立っていった。

「……ッ、クリムは中に戻ってて」

「……ネロは?」

 不安そうな顔を向けるクリムに、ネロは珍しく即答で言った。こんな状況だというのに中々冷静な判断だ。それが正しいのかどうかは分からないが。

「助けないと!」

 店の裏にあったワインのビンを二つ持つとネロは町の人を襲う真っ黒なミニドラゴンの方へ飛び出していった。戦い方なんて、ネロは当然知らない。


 ビンを構えながら、ネロは一体のミニドラゴンに目星をつけた。そのドラゴンは町の人を襲うのに夢中でネロに背を向けている状態だった。ほかのモンスターが近づいてこないのを見計らってネロは一気にドラゴンとの距離を詰める。

「は、な、れ、ろぉぉぉぉ!」

 ミニドラゴンの背後から近付いたお陰で、ネロは難なく攻撃をすることに成功した。攻撃が効いているかどうかは別として、頭部を思い切りぶん殴る。割れたビンの破片が飛び散り、ネロも傷付けるが気にとめない。そんなことよりもモンスターをどうにかする方が重要なのだ。

 殴られたミニドラゴンの目がギョロりとネロを睨み付ける。ドラゴンの背に乗っている状態のネロはそれを間近に見て少し怯んだし、ためらいもしたが、割れたビンの先を思い切りドラゴンの目に突き刺した。ドラコンのつんざくような咆哮があがる。耳がおかしくなりそうだ。

「やった!」

 吠えながら暴れるドラゴンの背中から飛び降りてネロは小さくガッツポーズをした。襲われていた人を避難させることにも成功し、ひとまず目的は達成された。だが、喜んでいる余裕はない。暴れるドラゴンは決して動けないわけではないし、モンスターはまだまだいるのだ。ビンはもう一本ある。あと一体攻撃して少しだけ動けなくさせられるとにらんで次のドラゴンの背中を探した。

 が、次の瞬間、ネロはとんでもない力で横から殴り飛ばされた。

「ネロッ!!」

 クリムの悲鳴が上がるがネロに届いたかどうかは分からない。だが、ネロを殴り飛ばした犯人、ミニゴーレムには届いたようだ。ミニゴーレムはクリムの姿を見つけると、ゆっくりと近付いていく。

 ここでネロの店の中に逃げ込めば、店が破壊されてしまう。冷静にそう考えることが出来たクリムは、ゴーレムとネロに背を向けて走り出した。


「……ふえた?」

 走り始めたときは、真っ黒なゴーレムが一体だけだった筈だ。それが今はミニドラゴンや背中に植物をつけたミニゴーレムなどざっと八体くらいはいる。

「……回り込まれた……」

 ネロが見たらどういう反応をするのか分からないが、忌々しそうに舌打ちをしてクリムは眉間にシワを寄せた。もう、クリムに逃げ場は残されていない。

「……こうなったら……ッ」

 クリムは足を止めて、自分を囲むモンスター達を睨んだ。そして、覚悟を決めたような顔で髪につけている花に手を伸ばした。

「う、お、お、お、おおおおぉぉぉぉッ!」

 クリムが何かをする前に、群れの中の一体のゴーレムの頭が吹き飛んだ。正確に言うと、蹴り壊された。どこからやったのかわからないが、ブランテの両足による蹴りで。

 地面に着地すると、ブランテはいつも持ち歩いている剣を抜いて、その他のモンスター達に斬りきった。慣れた動きで確実にモンスターの急所を貫き、破壊していく。剣で捌ききれないモンスターは足で対処し、上手く後回しにする。その光景にクリムは呆気にとられていた。

 ブランテは平和ボケしたトリパエーゼの住人では無かったのだろうか。そして、何故こんなにも戦い慣れをしているのだろうか。そういえば、普段何をしているのだろうか。そういった疑問がふつふつとわいてくる。


「ふぅ……、大丈夫か、クリムちゃん」

 ブランテがモンスター達を全て倒すまでそう時間はかからなかった。乱れた息を整えながらブランテはクリムと向き合う。

「……ブランテは……」

 普段何をしているの。そう聞くつもりだったのに、どうしてか言葉が出なかった。自分を囲んでいたモンスターはいなくなった筈なのに、心拍数が高いままであることに気付いてクリムは首を傾げた。

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