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「ブランテさん……い、今、何を?」
衝撃のあまりネロは敬語になった。一時的とはいえ、出会ったばかりの男女が一つ屋根の下で暮らす。これに衝撃を受けない者はいないだろう。しかも男の方は女に惚れている。
だが、ナンパマスター(ナンパ成功率二十パーセント)のブランテはそんな問題を全く気にとめていなかった。むしろ、自分の発想が余りにも天才的すぎて自分が恐ろしいと、ナルシシズムに浸りだしている。親友がナルシシズムに浸りだしたことを察したネロは色々と諦めることにした。人生諦めが肝心だ。こうなったブランテには何を言っても無駄である。経験がネロにそう語りかけていた。
「いや……でも、クリムは嫌……だよね?」
ネロは思い出したかのようにクリムに話を振った。惚れた相手と一つ屋根の下で暮らせるのはとても素敵なことだが、本人が同意しなければ実現するわけがない。ネロはそこに逃げ道を見出していた。つまりチキンなのである。
「……私は、カクテルを制覇したいって思ってる」
「……クリムさん?」
「私、気付いたの」
「え?」
「ここにいればカクテル制覇も夢じゃない……!」
クリムの目には確固たる意志が宿っていた。カクテルのために何を決意しているのだと突っ込みたいネロだったが、このままでは夢のようなことが実現してしまうため、そちらの阻止を優先する。
「よく聞いて、クリム。確かにカクテルは制覇出来るかもしれないが、俺たちはまだ出会ったばかりだ。一つ屋根の下という重大性を考慮してほしい。一応、十六歳以上みたいだし自分が女性だという自覚を持って……」
言いながら自分が何を言いたいのかネロは分からなくなっていく。ブランテが言っていたように、クリムを危険なところに住まわせるというつもりはない。しかし、だからといって、自分の家に住まわせたくはない。では、何故自分はクリムを住まわせたくないのか。よく分からないことを言いながらネロはそんな事を考え始めた。
自分がクリムに何をしてしまうか分からないから。これは違う。クリムに自分から声をかけられない男にそんな度胸があるはずがない。
世間体を気にしている。これも恐らく違う。世間体を気にするならば、彼女に住処を提供する方が普通は得策だ。ここで彼女を拒めば、『ネロ・アフィニティーは困っている女の子にすら優しく出来ない奴だ』なんて噂が広まるに決まっている。
ネロは頭の中で次々と理由を考えては否定していく。答えは中々出てこない。
「おい、ネロ? なあ、何でダメなんだよ」
ブランテにじっと見つめられて、ネロはため息をついた。そして何かを諦めたかのように目を閉じる。
「分かったよ……」
言いながらネロはブランテの素敵な提案を却下しようとした理由がわかった。
「ベッドの準備しとくから、荷物をまとめてきなよ」
否定するための材料を無くして、こうなることを必然だったことにするためだ。ネロは自分がどうしようもなくチキンであることを理解して、自ら退路を断ったのだった。
◇
ブランテが経緯を全て説明すると、にやつきながらロドルフォは納得したように頷いた。
「ネロも男になるときが来たか……感慨深いな」
「死ね!」
真っ赤な顔になってネロは叫んだ。女の子の前で今の発言はどうなのかとブランテは微妙な顔をした。クリムは我関せずといった感じに外を見ていた。ナンパの件といい、今の事といい、クリムは恋愛に関することに全く興味を抱いていないようである。そして、酷く鈍感だ。ネロがはっきり言葉にして示さない限り、そういう関係にはなれないだろう。
存分にネロをからかい終わると、ロドルフォはクリムが目を向けている窓に声をかけた。
「おい、そういうことらしいぞ」
正確には、窓のしたで会話をずっと聞いていたナディアに。
「な、ナディア!?」
「へへへーん、もう全部聞いたもんね!」
ペロッと舌を出して笑うと、ナディアは走ってどこかに消えた。




