夏休みのお約束。
「夏だな」
「…………」
突然そんなことを言い出した友人を無視する。
「青い空、白い雲、輝く太陽」
「………………」
「海、山、夏休み。イベントもりだくさんな季節だ」
「……………………」
無視し続ける。
「なのに……なのにさあ……」
ここでようやく、口を開いた。
大量の三点リーダーの後、心底嫌そうな表情で続きを促す。
「…………………………何だ?」
「――何が悲しくて、暑い部屋で男二人向かい合って勉強しなきゃなんないんだよ!」
「……お前が馬鹿だからだろ」
バッサリと切り捨て、顔を机に広げたノートに戻した。
「ああ、確かにお前の言う通り、俺は馬鹿だよ。毎回テストは全教科赤点、高校の補習にも強制参加させられたさ。けどな」
額に流れる汗をぬぐいつつ、火野駿はそこで言葉を切り、駿とは違い汗一つかかずに、涼しい顔で黙々と課題を片づけている沖紘を睨む。
「夏休みの中盤だぞ今は! 魔の補習からも解放され、さあ遊ぼうって時に何で宿題なんてしなきゃなんないんだよ!」
部屋にかけられているカレンダーのページは八月を示している。
「八月の序盤だぞ、遊ぶべき時期だろ!」
さっきから叫び続ける駿は、この部屋の温度と自分の体温を上げまくっている。
その駿を目の端で見つつ、紘はあくまでも冷静に返す。
「お前の母親に頼まれたんだよ。どうせ最終日までしないんだから手伝っててさ」
「お袋ぉ……!」
ちなみに本人は現在、婦人会だかなんだかの付き合いで避暑旅行に行っている。
「実際、お前夏休みとか冬休みとかの宿題、俺の写してるばっかりだろ。来年受験生なんだから、少しは真面目に勉強しろ阿呆」
現在、この二人は高校二年生だ。
来年は三年生になり、大学受験への準備をしなければいけなくなる。
高校二年生の夏休みという時期は、その辺りも視野にいれなければならない時期である。
「……だからって、お前さ……」
理路整然と言い負かされ、少しは頭が冷えたらしい。
駿は机に広がっている課題の中から適当に抜き出し、広げ始める。
「……何も、今日全部終わらせようってわけじゃない。片づけておけば、楽だろ後々」
「そうだけどな……」
広げはしたが真面目にやる気がないのか、シャーペンを手の中でクルクルと弄る。
「終わらせたら、何の憂いもなく遊び倒せる。これくらいの量なら一週間で終わるだろ」
「それはお前の基準だろ」
「読書感想文とかないしな。俺が教えながらやるから問題ない。一週間以内に終わらせる」
「……あっそ」
テコでも動きそうにない様子の紘に、駿も諦める。
「――それに、早く終わらせられれば、愛しのあの子と距離を縮められるだろ?」
「そこつくのか!?」
駿は瞬間湯沸かし器顔負けの速さで、林檎並みに顔を赤く染める。
紘はニヤニヤとした笑みを浮かべて、そんな駿を見る。
「夏休みはイベントもりだくさんな時期って言ったのはお前だろ? それだけたくさんあるなら仲良くなれるんじゃないか?」
「お前……自分の彼女は他校で被害受けないからって、俺をつつくなよ……」
「他人の恋路程面白いものはないからな」
「親友じゃないのかよ、俺たち!?」
「親友だから協力してるんだろ?」
いつの間にか二人とも、宿題のことを忘れ、盛り上がっていた。
「というか、そういうお前はどうなんだよ」
「俺は良好そのものだけど?」
「……このロリコン野郎……」
「失敬な。二つしか違わない」
紘は余裕の表情でそう言い返す。
「俺のことはいいだろ。それよりお前だ、お前。少しはアプローチしろよ」
「……ほっとけ。これでもしてるんだよ。ただあいつが気がつかないだけで」
そう言って駿は、はあ、と溜息をつく。
「だいたいあいつはさ」
「また惚気か?」
「惚気じゃない! 愚痴だ愚痴!」
「と言う名の惚気だろ?」
「違うわ!」
強くそう言い切るが、その顔は赤い。
「だいたい、あいつは気は強いわ、キンキン喚くわ、かと思ったらちょっとしたことですぐ泣くわ。欠点挙げていったらキリないぞ」
「要は大好きって言いたいのか?」
「だから違うっての! 話聞いてたか!?」
「それだけ挙げられるってことは、よく見てるってことだろ?」
そう言われ、駿は机に突っ伏して、両手を掲げて降参のポーズをとった。
「あー……何で惚れちゃったんだろうな……」
「知るかよ」
暗くなっている駿を横目に、紘は宿題のワークにペンを走らせる。
「ま、さっさと終わらせて、夏休みを満喫しようぜ。お互いのためにも」
「……へーい」
紘は、そう言って身体を起こした駿に苦笑しながら、自分の宿題を片付けるために次のワークを手に取った。
【了】




