孫たちのリクエストは『やきにく!』
※しいなここみ様主催『やきにく短編料理企画』に提供した一品です。
お盆休み──。普段は私と妻だけの静かな片田舎の我が家が、この時期だけはやたらと賑やかになる。
三人の子どもたちが、それぞれの家族を連れて帰省してくるのだ。
正月には、息子たちの嫁の実家や、娘の旦那の実家にそれぞれ帰省するのがいつしか恒例となっている。だから、このお盆休みの時期は、年に一度の一家勢揃いの機会なのだ。
──とはいえ、ウチに全員が泊るのは無理なので、家族ごとに近くの民宿やグランピング施設などに泊ることになるんだが。
『じぃじ、ばぁば、きたよーっ!』
「おお、よく来たな。スイカが冷えてるから、荷物を片付けたら食べなさい」
『はーい!』
孫たちの大半はまだ小学生なので、この辺りで出来る海水浴や昆虫採集などを楽しみにしてくれているようだ。──まあ、正月に私たちからもらえなかったお年玉を回収できるという目論見もあるとは思うが。
でも、やがてこの子らも中学や高校に進むと、親の実家への帰省などは『ウザい』とか言って来なくなるかもしれない。
こうやって勢揃いできるのも、あと何年続けられるのだろうな……。
昼過ぎに長女一家が到着して、ようやく全員がそろった。そろそろ、夕食のことも考えねばならんな。
──以前は、妻も皆をもてなそうと張り切って、色々な大皿料理を大量に用意したものだった。でも体力も衰えてきたし、孫たちの食べる量も増えてきたことから、ここ2・3年は皆で外に食べに行くようにしていたのだ。
「じゃあ、みんな揃ったし、夕ご飯に何を食べに行くか決めましょうか。みんな、何が食べたい?」
妻の問いかけに、孫たちが一斉に声をあげる。
『やきにくーっ!』
──やっぱり、そうきたか。孫たちは食べ盛りだしなぁ。
でも正直言って、私や妻はもう焼肉の脂がキツくて、あまり食べられない年代なのだ。何とか他のメニューに変えさせることは出来ないだろうか。
「おや、もったいないなぁ。ここは海も近いし、魚がすごーく旨いんだぞ。焼肉より寿司とかの方が──」
「えー、でもこないだ、回転ずし行ったばかりだもん。やきにくの方がいいな」
「あ、ウチも! 先週、〇〇寿司に行ったよ!」
──息子たちよ。もう少し頭を使ってはくれまいか。帰省の直前に孫たちを寿司になんて連れていったら、相対的に肉料理を選ぶ確率が上がってしまうではないか。
実は去年も、孫たちのリクエストで焼き肉店に行くことになったのだが──私と妻は肉にはほとんど食指が動かず、冷麺と焼き野菜くらいしか口に出来なかった。それに気づいてなかったのか。
このバカ息子たちは、私たちくらいの年代の人を接待する時にも、無神経に焼肉をチョイスするとでもいうのだろうか。
もし私が現役だった時代に部下がそんな判断をしていたら、1時間は説教してやるところなんだが。
とは言え、孫たちのリクエストを無視するわけにもいくまい。やむを得ん、ここは私と妻が我慢するしかないのか。
「──みんな、ちょっと待った!」
そんな時、声を張り上げたのは、長女の長男の隆太だ。孫たちの中では最年長で、今は確か中一だったはずだ。
「じぃじたちくらいの歳になると、焼肉は脂っこくて、あまり食べられないみたいなんだ。せっかくみんなでご飯を食べるのに、じぃじたちが楽しめないのって、よくないんじゃないかな?」
隆太がそう言うと、孫たちだけじゃなく息子たちもハッとしたようだった。
「母さん、ウチが泊るトコにBBQ施設が併設されてなかったっけ?
BBQなら焼肉も出来るし、海鮮も焼ける。それなら、全員が楽しめるんじゃないかな?」
「え? ──あ、ああ、そうね」
「今夜の空きがないか、確かめてくれる?」
「ええと──あ、行けそうだわ! よし、押さえたわよ!」
長女がスマホ操作を終えると、隆太が他の孫たちに声をかけた。
「よーし。これでみんなも焼肉を楽しめるし、じぃじたちも焼肉以外のメニューを楽しめることになったぞ」
『りゅーた兄ちゃん、すげー!』『あったまいいー!』
孫たちが盛り上がってる傍らで、息子たちもようやく現実的な話をするモードになってくれたようだ。
「ウチの車と姉さんの車で、全員を運ぶことは出来ると思う」
「頼む。──じゃ、ウチが食材調達に走り回るわ。✕✕スーパーって、まだつぶれてないよな?」
「さっき前を通ったけど、やってたわよ。
あ、ちゃんとレシートはもらっといてね、あとで精算するから」
ふう。これで一安心か。
私は胸をなで下ろして、ポチポチとスマホをいじり始めた隆太にコソッと声をかけた。
「ありがとうな、隆太。自分からは言いにくかったので、助かったよ」
「あー、いいっていいって。去年、じぃじたちがほとんど肉を食べてなかったのに気づいてたからさ」
ほう。なかなか気が利くじゃないか。
――ん?
「なあ、それなら何で、前もって大人たちに言っておいてくれなかったんだ?」
「え? だってみんなの前で言った方が、オレが出来る男だって親戚一同にアピールできるじゃん」
そう言って、隆太はニカッと笑ってみせたのだった。
「そういうわけで、気の利く自慢の孫には、ちょっとくらいお小遣いに色つけてくれてもいいと思うんだけど?」
――やれやれ、この抜け目のなさはいったい誰に似たんだか。




