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魔王討伐のはずが、備品管理で終わりました

作者: 螺旋
掲載日:2026/03/15

 魔王軍四天王、最後の一人が落としたのは斧ではなかった。


 備品管理票だった。


「返却期限、三日過ぎてますね」


 俺がそう呟いた瞬間、血まみれの四天王が膝から崩れ落ちた。


「う、うそだろ……我が漆黒の断罪斧は、魔王様からの正規支給品……」

「正規支給品ならなおさら返してください」

「戦いの最中に総務みたいなこと言うな!」


 勇者レオンが叫ぶ。

 いや、俺だって言いたくて言ってるわけじゃない。


 俺、近藤倉人、二十六歳。

 コンビニ帰りに異世界召喚された、ごく普通の会社員である。


 勇者として召喚されたのは隣にいたレオンで、俺は完全に巻き添えだった。

 だが王様は言った。


『そなたにも希少スキルがある。《棚卸し》じゃ』


 そのときは、地味だなと思った。

 今も思ってる。

 でもこのスキル、地味なくせに、やることがいちいちおかしい。


 触れたものの名称、所有者、保管状況、貸出期限が見える。

 それだけなら倉庫管理で終わったのに、なぜか対象のほうまで管理ルールに従い始めるのだ。


 最初に被害に遭ったのは、勇者レオンの伝説の剣だった。


『聖剣アルブレイド 保有者:王国 貸与先:レオン 返却条件:魔王討伐後速やかに』


 俺が読んだ瞬間、柄にぴたりと札が貼られたのである。


【王国備品 第七勇番】


「えっ、何これ」

「備品札ですね」

「見ればわかるわ! なんで聖剣に!?」


 その日からレオンは、聖剣を地面に直置きすると自動で手元に戻されるようになった。

 王国の備品は丁寧に扱え、ということらしい。

 便利なのか不便なのか、本人もずっと困っていた。


 次に被害に遭ったのは、聖女ミレイユの神馬だった。


『神馬ルクス 区分:高額貸与騎乗物 給餌責任者:聖女ミレイユ』


 読んだ瞬間、馬の首から札が下がった。


【騎乗後は所定位置へ戻してください】


「神馬に注意書きがついたぁ!」

「しかも自分で厩舎に戻るようになりました」

「便利ではありますけど、神秘が死にましたわね……」


 ミレイユが遠い目をした。


 そんな感じで、勇者パーティーはだんだん冒険者というより、備品の多い現場職みたいになっていった。


 レオンの盾には「破損時は報告書を提出」。

 ミレイユの杖には「無断改造禁止」。

 俺の背負い袋には「私物混入厳禁」。


 なんで俺のカバンにまで貼るんだよ。


 だが、本番は魔王領に入ってからだった。


 最初の関門は、毒霧の沼に棲む巨大な毒蛇だった。

 レオンが剣を抜く。

 ミレイユが祈る。

 俺はいつものように後ろで震えながら、うっかり毒蛇の尻尾に触れた。


『沼地防衛生体兵器 管理者:魔王軍西部方面部隊 稼働条件:侵入者検知』


「……生体兵器?」

「今さら怖い情報を声に出すな!」


 さらに下に小さく表示があった。


『点検日:毎月第一火曜』


「えっ、点検あるの?」

「生き物なのに!?」


 俺が呆れて読み上げた瞬間、毒蛇の動きがぴたりと止まった。

 首元に赤い札がぶら下がる。


【点検中】


 巨大毒蛇、寝た。


「寝るなよ!」

「点検ってそういう処理なんですの!?」

「いや俺に聞くな!」


 そのまま俺たちは、寝ている毒蛇の横をそっと通った。

 レオンはしばらく黙っていたが、やがて剣を収めて言った。


「これ、もう俺いらなくない?」

「いるよ。たぶん最後の最後で要るよ」

「その“たぶん”が怖い」


 次は、魔王城前の自動迎撃弓隊だった。


 城壁の上から無数の矢が一斉に向けられる。

 普通ならここが総力戦だ。

 たぶん。

 でも俺の視界には、兵士たちの装備情報が流れた。


『連装迎撃弓 所有者:魔王城警備課 貸出先:北門当番兵』


 嫌な予感がした。


「倉人さん?」

「いや、これ、たぶん……」


 俺は半泣きで叫んだ。


「返却処理、されてませんよね!?」


 その瞬間、城壁の上で弓兵たちがざわついた。

 弓が一斉に白く光る。


【未返却装備 回収モードへ移行します】


「回収モードって何!?」

「知らん!」


 次の瞬間、弓が兵士の手を離れ、ものすごい勢いで倉庫らしき方向へ飛んでいった。

 武器を失った弓兵たちは、上から顔だけ出して俺たちを見ていた。


「……どうします?」

「どうしますって」

「門、開けましょうか?」

「なんで開けられる前提なんだよ!」


 開いた。

 門の横にあった管理盤に触れたら、


『魔王城北門 設備番号M-001 前回保守点検:四年前』


 と出たので、つい「点検遅れてますね」と言ってしまったら、自動で開放モードになったのだ。


 魔王城、ガバガバか?


 ガバガバだった。


 中に入ると、廊下の魔導照明は「消耗品在庫不足」。

 呪いの甲冑は「貸与先死亡のため回収待ち」。

 玉座の間へ続く階段は「安全柵未設置」。


「魔王軍、思ってたより現場が荒れてるな……」

「逆に親近感が湧いてきましたわ」

「湧かなくていい」


 そして、玉座の間。


 黒いマントを翻し、魔王が立ち上がる。

 ツノ、威圧感、赤い目。うん、ここだけはちゃんと魔王だ。


「よく来たな、勇者よ! 我が絶望の城で――」

「すみません、その玉座」


 俺の視界に表示が出てしまった。


『玉座 所有者:初代王家 持出区分:無断搬出中』


 玉座の足に、見覚えのある備品札がつく。


【王国備品 持出禁止】


 魔王が固まった。


「……は?」

「いや、あの、これ王国の備品らしくて」

「そんなわけがあるか! これは我が先祖代々の」

「備品番号、王国様式ですわね」

「本当だ、しかもかなり古い」


 レオンとミレイユまで確認し始めるな。

 なんだこの空気。


 魔王は慌てて玉座から立ち上がった。

 すると今度は、床一面に情報が走った。


『魔王城中央統治設備群 総括管理者:現魔王ヴァルガス』

『建物区分:旧王国迎賓館改装』

『状態:無断占有』


 嫌な予感どころじゃない。

 大事故の気配しかしない。


「えー……」

「言うな」

「でもこれ、言わないともっとまずい気が」

「言うな!」


 魔王に止められたが、止まらなかった。

 俺の口が。いやスキルが。


「無断占有、長いですね」


 その瞬間、城全体が鳴った。


 ゴォン、ゴォン、と荘厳な警鐘。

 天井に光の文字が浮かぶ。


【長期無断占有を確認しました】

【固定資産回収手続きを開始します】


「始めるな!」

「城が勝手に動き始めましたわ!」

「床が王国側に寝返った!?」


 壁が動き、赤絨毯がくるくる巻かれ、燭台が箱詰めされ始めた。

 窓には板が打たれ、絵画は布で包まれ、鎧が木箱に入っていく。


 引っ越し業者か。


 玉座の間の中央で、魔王がぶるぶる震えた。


「やめろ! 余は魔王ぞ! 恐怖の支配者ぞ!」

「でも管理者って出てます」

「余を台帳で語るな!」


 さらに、俺の視界に最後の一行が浮かんだ。


『現魔王ヴァルガス 区分:占有責任者 処理方法:身柄返還』


 俺は頭を抱えた。


「レオン」

「なんだ」

「たぶんだけど」

「嫌な予感しかしない」

「魔王、討伐じゃなくて返却対象だ」

「この決戦の締めが返却って何なんだよ!」


 しかし表示されたものは表示されたものだ。

 次の瞬間、魔王のマントの背中に、無慈悲な札が貼られた。


【王国管理対象 関係部署へご返送ください】


 魔王は膝をついた。


「……余は、荷物か」

「気持ちはわかる」

「わかるな!」


 結局、魔王は倒されなかった。

 王国の役人に引き渡された。

 罪状は侵略ではなく、まず大規模無断占有および長期備品持出だった。


 なんか違う。

 絶対になんか違う。


 だが結果として、魔王軍は瓦解した。

 城は接収され、王国は歓喜した。

 俺たちは凱旋した。


 城門前では国王自らが待っていた。

 レオンに勲章。

 ミレイユに褒賞金。

 そして俺には、満面の笑みで羊皮紙が渡された。


「えっ、報奨金ですか」

「うむ。そなたには特別な辞令を用意した」

「辞令」

「王国資産正常化特別顧問じゃ!」

「いらないです」


 間髪入れず断った。

 俺はもう棚卸しなんてしたくない。

 元の世界に帰って、コンビニでプリンを買って、静かに暮らしたい。


「恐れながら陛下、俺は帰還を」

「うむ、その件も確認してある」


 国王がにこやかに、召喚時の台帳を広げた。

 そこには見覚えのある王国様式の管理欄がある。


 いやな予感しかしない。


「近藤倉人殿」

「はい」

「そなたの召喚情報じゃが――」


 国王が朗々と読み上げる。


『異界人一名 召喚装置付属補助人員』

『所有者:王国』

『区分:長期貸与』

『返却先:未登録』


 俺は固まった。


「……はい?」

「つまり、帰せぬ」

「そんな備品みたいな言い方あります!?」

「備品ではない。人材じゃ」

「台帳の区分が貸与なんですよ!」

「細かいことは気にするな」

「いちばん気にしなきゃいけないところだろ!」


 レオンが肩を震わせていた。

 笑うな。助けろ。


 ミレイユまで口元を押さえている。

 お前までか。


「ご安心ください、倉人さん」

「何がです」

「私、さっそくあなた用の札を作っておきましたわ」

「やめろ」


 聖女が差し出した札には、こう書かれていた。


【王国備品ではありませんが大体そんな感じです】


「雑ッ!」


 広場が笑いに包まれる。

 俺だけ包まれたくなかった。


 その日の夜、王城の部屋に戻った俺は、机に一枚の紙が置かれているのを見つけた。

 見覚えのある、管理票だ。


『王国資産正常化特別顧問 近藤倉人』

『担当業務:王城・武具庫・聖堂・魔王城分館の棚卸し』

『備考:本人も所在管理対象』


 俺は天井を見上げた。


「……魔王より先に俺が返してほしいんだが」


 すると、胸元でかさりと音がした。

 いつの間にか服に小さな札がついている。


【持出禁止】


「誰が貼ったァ!?」


 廊下の向こうで、レオンとミレイユの笑い声がした。


 たぶん明日からも、俺はこの国で働く。

 勇者パーティーの荷物持ちとしてではない。


 世界でいちばん面倒な棚卸し担当として。


 ちなみに後日、魔王ヴァルガスから手紙が来た。


『王国地下書庫に正式配属された。余より書庫のほうが静かで怖い。助けてくれ』


 知らん。

 こっちもまだ、返却先未登録なんだよ。

本作は制作過程でAIを活用しています。公開にあたり、内容は作者が確認のうえ調整しました。

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