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4話 閉ざされた村

 「緑に囲まれた」と言えば聞こえはいいが、山に囲まれ、水田が広がっているだけの場所、それがK市だ。その中で家々がぽつりぽつり、と立っている。土地は広いはずなのに、狭い―それは、田舎特有の狭い人間関係のネットワークを表しているようでもあった。


 唯一の駅は無人駅で、その看板は錆びていた。コンビニエンスストアは市の境に一軒あるのみで、あとは寂れた酒屋があるだけだ。ここが、父が死ぬまですがり続けた村。そして、私が逃げだした場所。それともう一度、対峙する時が来たのだ。


 父の発狂、いもち病の予測、神の復活を示唆するツイート―それらは、この村で古くから行われている神事である●●●祭(特定を避けるため、伏字)と何か関りがある気がしてならなかった。


 白瀬は、かつては気味が悪いと手伝いもしなかった。それは元々、人身御供の儀式だったという事実を知っていたのと、参加者たちの陰湿な空気が嫌だったからだ。だが、それが白瀬の不調を解く、きっかけになるかもしれなかった。


●●●祭は、記録によれば、十五世紀から行われてきたとされる。一説によれば、山の神が怒り、飢饉を起こしている、と考えた村人が、娘を山へ差し出したのが始まりだと言われている。その名残か、現在でも未婚の女性でないと参加は許されていない。


 白瀬は、腹を押える。何かが山の神を怒らせ、そして、その呪いが父や私の身に降り注いだというのか。昔の白瀬なら、鼻で笑っただろうが、今ではそうもいかなかった。


 ●●●祭に目をつけたのは、勘だけが理由ではない。とある文献によれば、●●●祭の巫女は、草木の声を聞くことができた。つまり、船見のいう「神託」を受けることができたのだ。


 嘘か誠かは分からないが、巫女たちは、不作を予想し、飢饉を防ぐ役割を果たしていた(諸説あり)。つまり、巫女がいもち病の発生を予測した可能性は捨てきれない。


 白瀬は頭を捻る。どこかでピースを掛け違えている、と言う感覚があった。山神に捧げられる人身御供としての巫女、山神と繋がり神託を受ける巫女、その二つが繋がらない。おそらく、伝承がまぜこぜになった結果だと、白瀬は考えていた。とはいえ、山の意志をコントロールしようとするヒトの姿は変わらない。


 だが、分からないのは、なぜ今になって山神が怒り始めたのか、ということだ。白瀬の脳裏に、ツイッターの言葉が思い出される。


 船見に意見を聞いたところ、儀式の手順に何かしらの変化を加えたからではないか、と推理していた。だからこそ、実際に●●●祭を見て、深く調べることが必要だと考えた。


 船見と別れ、家路につくと、様々なことが思い出された。かつては豪農と言われた白瀬家、その末裔たる父は、村の名士であった。だが、少しずつ落ちぶれ、見えない何かに縛られるようになった。家では怒鳴り散らし、村では形だけ敬われていた。


 決定的に落ちぶれたのは、あの裏山を売却した時だっただろうか。かつて、朝から日が暮れるまで遊びまわった、あの裏山。あそこに勝手に入るな、と言われた時の家族の空気感は忘れることができない。


 家の没落、いもち病の発生と、大きな被害。父は、それによって心身を病んだのだろうか?


 いや、違う。あの電話は、本当に何かおかしなものが見えていたに違いない。今の私と同じように。


 家に着き、鍵を開ける。微かにカビの臭いがした。床が妙に軋み、音をたてた。


 自室はほとんど変わっていなかった。まるで昨日までここにいたような錯覚。だが、どこか現実ではない妙な感覚がした。


 荷ほどきをし、持ってきた一冊の本を開ける。自分に降りかかる呪いの科学的な根拠を考える上で見つけた本だ。本を開くと、閉じかけていた扉が閉じた。白瀬は、身体を震わせ、扉を見つめる。外の空気が立たれ、妙に寒々しい。かすかに埃のある部屋は、圧迫感を覚えた。


 その本は、16世紀、ヨーロッパやアメリカで起きた魔女狩りについて考察している。魔女狩りのような集団ヒステリーが、麦から発生したカビによる幻覚よって引き起こされた可能性について語っていた。


 白瀬にかかる呪い(のようなもの)もその一種だと仮定したとして、コメの病気が、なんらかの形で、ヒトに影響を与えることはあるのだろうか。だが、ネットで調べてもそのような物は出てこない。あるとすれば、神と一体化するために、飲む酒が米から作られ、それを飲んだ巫女による神がかり状態がそれに近い。


『神のお告げか……だが、お前がいもち病の発生を予測できたなら、それは神託になるのかな』


 ふと、船見の言葉が思い出される。


「いもち病、ヒト、感じ取る」で何度かAIで調べさせる、すると、的外れな意見が返ってきた。


 植物は、揮発性有機化合物(VOC)と言う化学物質フェロモンのようなものを出し、植物同士でコミュニケーションを取っているのだという。例えば、近くに外敵が居るとか、栄養素や水が足りないと言ったことを、VOCを使い、仲間同士で教え合っているのだ。


 AIが言うには、それを高度なセンサーで検知すれば、植物の病気を予測できると言う。だが、この件は、白瀬の現状とは全く関係がない。AIに頼った自分にため息をつき、白瀬は、ゆっくりと布団に倒れこむ。気が付くと眠りについていた。

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