3話 悪友
白瀬は新幹線を降りると、地方都市のハブ駅で、とある人物を待つ。
「おうぃ!」
サングラスをかけ、短パンを吐いた男性が近づいてくる。彼の名は、船見、小学校からの友人で、いわゆる腐れ縁というやつだ。
K市への電車は一時間に数本しかない。なので、隣接するS市に住んでいる船見から車で送ってもらうことにした。それは久しぶりに会う口実でもあった。
白瀬は、船見の車に荷物をつめ、助手席に乗り込む。車の中は、わずかに電子煙草の臭いがした。
「さて、出発しますか」
電子煙草を片手に持ち、船見が言う。この男は、元々問題児で、中学の頃、補導されたこともあると聞く。部活が同じだったことから、話したが、そうでなければ話すことはなかっただろう。
「いやぁ~久しぶり」
飄々(ひょうひょう)とした掴みどころのない男だが、仕事はしっかりとしているようで、社員証のカードが後部席に見えた。
「全く、K市は、夏は蒸し暑くて嫌になるね」
船見は、電子煙草をふぅと吐き出した。
「そりゃ……帰ってきたくなんてなかったさ」
幻聴による、軽度のうつ状態に入ってから数日、医師は薬を出すと同時に、食生活を含めた生活改善を言い渡してきた。腸内細菌が、うつ症状に影響を与えるという研究結果もある。確かに食生活は荒れ、それと相関するように便の状態は悪化していた。
白瀬は、自分の見る幻覚や幻聴、ツイートの話を話した。
「いもち病を予測……ねぇ」
船見は、信号待ちをしながら、電子煙草の吸殻を捨てる。その細く、骨ばった腕や、指が見えた。その腕に着いたブレスレッドが揺れる。
「病院は行ったの?」
「行ったけど……異常はないって」
「ふぅん、脳の異常ではないわけね。精神的なものってわけ」
白瀬の話を、船見は笑うことなく聞いてくれる。
そう言えば、駅前に新しいラーメン屋ができたの、知ってる? いや、知らない
そんな無為な会話を交わしながら、県道を進む。ふと、信号で車が停まる。
船見がハンドルを指でたたきながら、
「まだ引き返せる」
「行ってくれないか」
「良いのか」
一瞬、船見が心配そうな視線を送ってくる。小さい村だとしても、名家と言われた実家から逃げたのだ。簡単に受け入れられる訳がない。どんな目に合うか分からない。
「まず、叔父さんに挨拶に行くつもり。あの人なら受け入れてくれる」
「そうか」
「いい加減、自分も折り合いを付けたいし」
「分かった」
船見はルートを変えずに、K市へ進む。
車を走らせて40分、コンビニエンスストアで停車し、休憩をしていた。
白瀬は、流動食を飲み、ため息をついた。最近は食事を美味しく感じなかった。何を食べても味がしないのだ。無味の粘土を噛んでいるような―
「美味しくないのは分かるが、しっかりと栄養はとった方が良いんじゃないのか」
船見は、そう言い、携帯食料を手に握らせる。
「ありがと……」
銀色の包装を解き、もそもそと食べる。
「神のお告げか……だが、お前がいもち病の発生を予測できたなら、それは神託になるのかな」
「はぁ?」
「いやいや、何となくそう思っただけ」
そう言い、船見は車を発進させた。
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