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12話 調査

 それから、白瀬は、船見の家で調べ物を始めた。


 まずは、儀式が変更されていないかを調べる。すると、父が高校生の頃に、●●●祭の主催が、白瀬家から宮部家に変わっているのが分かった。


「儀式を変え、神が怒った……か」 船見は、仕事を終え、着替えながら聞く。


 白瀬は、料理をしながら、


「何かの関係はあるはずだと思う」


 でもさぁ、と船見は煙草を咥えながら、


「他の伝承も含め、山の神として記録に残っているのは、毛むくじゃらで大きなオスの狒々みたいな怪異だろう。それって、つまり、山に住む山賊だったんじゃないか?」


「じゃあ、ただの人ってこと?」


「まぁそういう事になるな」 船見は、白瀬の手料理を食べながら言う。


「そんな存在が呪いを振りまけると思うか?」


「それは……」


「ずっと気になっていたんだが、怒って飢饉を発生させる神と、未婚の女性を求める神のイメージがなんか、合わないんだよな。色々な時代の伝承が混じってたりするんじゃないだろうか」


「私もそれは思った」


「いもち病のツイート、あれが本当に●●●祭に関係があるなら、山の神霊みたいな存在と意思疎通できる巫女が居たって事になる。もしかしたら、何かしらの呪術を使って、巫女は飢饉を予測したのかも。そういう存在を仮定するなら、その霊が呪いを振りまいている可能性もある」


「なるほど……」


 AIチャットを起動し、


「いもち病、ヒト、感じ取る」で調べさせる、すると、的外れな意見が返ってきた。


 植物は、揮発性有機化合物(VOC)と言う化学物質フェロモンのようなものを出し、植物同士でコミュニケーションを取っているのだという。例えば「近くに外敵が居る」と言ったことを、VOCを使い、仲間同士で教え合っているのだ。


 AIが言うには、それを高度なセンサーで検知すれば、植物の病気を予測できると言う。だが、この件は、白瀬の現状とは全く関係がない。


 白瀬は大きくため息をついた。


「調べる文献を広げてみる?」


「いや、まずは●●●祭について調べられる限り調べてみよう。儀式の変更の前後で何か起きているかもしれない。お前は、図書館で古い新聞を調べてくれ」


「分かった」


 白瀬は、図書館に通い、儀式の主催者が、白瀬家から宮部家に変わった時期(おそらく白瀬の父親が高校生くらいの時)の新聞を調べ始めた。しかし、それらしき事件のような物はない。


 成果がない事を告げる為、船見の家に戻る。すると、仕事帰りの船見は煙草を吸っていた。


「俺も最近、白い靄、見えるんだよ」


 何事もないかのように言う。


「どうして……私が呪いを写してしまったのかな」


「心配すんなって」


 船見は、白瀬の肩を叩き、


「解呪すればいいんだろ。そう言えば、面白い話を聞いたよ。この前話した夜な夜な、徘徊し、やたら物音に怯える老女の話あったろ」


「ああ……あったね」


「親に電話して聞いてみた。あれは親の世代じゃ、都市伝説になっていたらしい。宮部和子と言う実在の女性なんだ。生きていれば、今年で80歳くらいだろうか」


「それがこの件と何の関りが?」


「宮部家の長女らしい。お前の嫌っているな」


「知らなかった……和子なんてひと、会ったこともないし、見たこともない」


「その通り、彼女は、ずっと引きこもって生活していたらしい。しかも、その時期は、主催が白瀬家から宮部家に変わった時期に合致している」


「そんな……」


 船見は微笑み、大きく息を吸い、


「俺は、最大限に想像力を働かせ、和子がなぜ、昼間出歩けず、僅かな物音に怯え、付き人なしでは外出できなくなったか考えてみた。彼女の状況、つまり外見から見た現象を今一度、思い出してみたんだよ。時が止まったような静止、あの時が凍り付いたような表情。あれはさ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)なんじゃないかと」


「あのトラウマとかの……あれ?」


「そうだ。そして、和子の歳から考えて、戦争を体験したとはとても思えない。つまり、トラウマの原因は、戦後に行われた何かという物。かつ、村人が口をつぐむもの」


「まさか……」


「そう、性的暴行だ」


「だが、それとこの件に何のかかわりがある?」


「分からん。だが、時期としては儀式が変わった日付と近い」


「でも、この件については深堀は不可能だ!」


「いや、可能だ。忠人とかいう、お前の父親の兄貴いただろ。行方不明になってるって、その男を探すんだ」


「なるほど……分かった」


 2人は金を折半し、探偵を雇った。名前や出身地、出身高校などを教えた。すると数日後、連絡が来た。


「見つかりましたよ。ただ、苗字は変わっています」


 話を聞くと、かなり遠くに住んでいるようだ。高校を中退し、そこの県周辺で働き始めているのだという。


「電話番号は……」


 2人は忠人に電話をかけた。浩二から連絡が言っていないか、という名目で。


 時間を空け、何度も電話すると、やっと、


「はい……」


 電話の奥で、掠れた声がした。白瀬は、自分が白瀬浩二の親戚であり、浩二が現在行方不明であることを伝えた。そして、何か情報が無いか、を聞いた。


「いや……情報も何も、何年も連絡は取ってないので」ぶっきらぼうに返される。


「直接的な関連はないのですが、お聞きしたことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「まぁ……はい」


「K市で行われている●●●祭と言うのをご存じですか?」


「ええ……懐かしいですね」忠人の声が僅かに明るくなる。


 白瀬は、船見に視線を送る。


「実は●●●祭に関する書籍の依頼がありまして、情報を知っている方に聞いて回っているのです」


「はぁ……そうですか」


「儀式の変更や、儀式の歴史について何か知っていることがあれば、メールをしていただけないでしょうか」


 そう言い、メールアドレスを教え、交換する。


 やれることは全てやった、そう思ったが、ふと、


「宮部和子と言う方をご存じですか?」


 電話が長い間無音になる。そして、荒い呼吸が聞こえ、


「し……しらん、切るぞ!」


 通話が切れ、電子音が鳴り響いた。


 二人は視線を合わせる。忠人は、和子と何かがあった。そして、村に居られなくなったのだ。

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