22話 怪談の夜
「カズヤのはちょっと作り話っぽいかな。私の話は……もっと地味だけど、今も続いてる話」
2人目のミサは、カシスオレンジの氷をカチャカチャと鳴らしながら、視線を落とした。 さっきまで盛り上がっていた4人の空気が、彼女の低い声で少しだけ引き締まる。
「私の実家の近くに、すごく細い踏切があるの。人一人が通れるくらいの。そこで三年前、お婆さんが亡くなったのね。でも、事故じゃなくて病死。踏切の真ん中で立ち往生して、そのまま。 それ以来、その踏切を渡ると、後ろから『ごめんね、ごめんね』って声が聞こえるようになったの」
ミサはそこで言葉を切り、俺の方をチラリと見た。
「それを聞いた人は、みんな『あ、お婆さんの幽霊だ』って思う。だから優しく『大丈夫ですよ』とか『気をつけて』って返すんだけど……そう答えた人は、一週間以内にみんな、足の骨を折る怪我をするの。 なぜかわかる? お婆さんは『踏切で死んだこと』を謝ってるんじゃなかった。 『これからあなたの足を折るから、ごめんね』って、予行演習をしてただけなの」
ミサは、クスクスと笑った。
「実はね、私の左足、今ギプスしてるの。昨日、その踏切を通っちゃって……つい、返事しちゃったんだよね」
ミサがカウンターの下から足を出す。 確かに、白い包帯が巻かれた足がのぞいていた。 他の三人は「えっ、マジで?」「笑えないって」と少し引き気味に反応する。
だが、俺の目には違うものが見えていた。 ミサのギプス。そこから、細くて青白い「指」が何本も突き出している。 それはミサ自身の指じゃない。 地面から生えてきたような、土のついた老婆の指が、ミサの足を内側から握りつぶそうとしているのだ。
「……春樹さん。そのカクテル、ちょっと味が薄いかも。もう一杯、強めにお願いできる?」
ミサが微笑む。その口元から、一瞬だけ線路の石が擦れるような、ジャリッとした音が聞こえた気がした。
俺は何も答えず、新しいグラスを手に取る。 カズヤの「乾燥」した話。 ミサの「足を狙う」話。 一人ずつ話が進むたびに、店内の温度が確実に一、二度下がっている。 そして、三人目の男が、暗い顔で口を開いた。
「次は俺だ。……今の話に比べたら、俺のはもっと『すぐそこ』にある恐怖だよ」




