21話 怪談の夜
東京の繁華街は、死んだ話が腐るほど転がっている。 深夜、二階にある俺の店に、大学生くらいの四人組がやってきた。男二人に女二人。 彼らはひどく興奮した様子で、テーブル席ではなく、わざわざ俺を囲むようにカウンターに座った。
「春樹さんも聞いてよ。今、この近くの『開かずの路地』に行ってきた帰りなんだ」
リーダー格の男、カズヤが身を乗り出す。
「そこで一人ずつ怖い話をして、最後にここに来るって決めてたんだ。……まずは、俺から話すよ」
彼は一口、ビールを煽って話し始めた。
「……一年前の話。俺の友達が、この繁華街の裏にある古いコインランドリーに行ったんだ。深夜二時、客はあいつ一人。 乾燥機が回る音をぼーっと聞いていたら、一番奥の、ずっと故障中のはずの乾燥機が、ガタガタと激しく揺れ始めたらしい。 あいつが怖くなって帰ろうとしたら、その乾燥機の丸い窓に、内側からべったりと『手のひら』が押し付けられた。 それも、ただの手じゃない。熱でドロドロに溶けて、ガラスに張り付いた皮膚が、ゆっくりと文字を書いたんだ。
『ダ、シ、テ』
あいつは腰を抜かして逃げ出した。でも、次の日に気になってそのランドリーに行ったら、故障中だったはずの乾燥機の中に、あいつが昨日着ていたはずのTシャツが入ってたんだって。……あいつ、昨夜は裸で帰ってきたっけ?って、その時、自分でもわからなくなったらしいよ」
カズヤはニヤリと笑った。
「結局、その友達はそれから一週間後に、風呂場で熱中症で亡くなった。発見された時、体中の皮膚が、まるで乾燥機にかけられたみたいに……カサカサに乾いてたってさ」
他の三人は「うわ、最悪」「マジかよ」と盛り上がっている。 俺は黙ってグラスを拭いていた。 カズヤの話は、よくある都市伝説の類に見えた。 だが、俺の霊感は別のものを捉えていた。 カズヤの背後。カウンターの影に、まるで「乾燥」した枯葉のような、カサカサとした乾いた音が微かに響いている。
「次は、私の番ね」
隣の女の子、ミサが楽しそうに声を上げた。 俺は何も言わず、二杯目の飲み物を用意する。 この「怪談」が、ただの暇つぶしで終わらないことを、俺だけが予感していた。




