表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バーテンダー春樹の苦悩  作者: 道雪ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/21

18話 綺麗な男

 数日後、その男は再び現れた。  夜の繁華街に溶け込まない、場違いなほどの清潔感を纏って。


「こんばんは、春樹さん。預けていたものは、無事でしょうか」


 男は前回と同じ席に座り、穏やかに微笑んだ。  俺は何も言わず、金庫からあのコースターを取り出してカウンターに置いた。  霊感は相変わらず何も告げない。彼の背後は驚くほど真っ白で、鏡に映る姿もどこまでも「綺麗」だ。それが逆に、俺の神経を逆撫でする。


「……大切に保管しておりました」 「ありがとうございます。あなたはやはり、信頼できる」


 男はコースターをポケットにしまうと、今日はジントニックを注文した。  ライムを絞る俺の手元を、彼は楽しそうに眺めている。


「そういえば、ニュースを見ましたか? あの事件。……『綺麗』な死体だったそうですね」


 心臓が跳ねた。  彼は、まるで昨日のプロ野球の結果でも話すような気安さで、あの事件を口にした。


「……ええ、少しだけ。物騒な世の中ですね」 「物騒? いいえ、あれは救いですよ。不潔な生を終えて、あんなにも清潔な死を手に入れた。あの方は、最後にようやく『完成』したんです」


 男の声には、狂気を感じさせる高揚感すらなかった。ただ、真実を述べているだけの、淡々とした響き。  俺はカクテルを出しながら、思い切って聞いた。


「……あのコースターの数字は、何だったんですか」


 男はジントニックを一口飲み、満足げに喉を鳴らした。


「ああ、あれですか。私の『日記』のようなものです。何を見て、その時に私の鼓動がどう跳ねたか。……春樹さん、あなたは、人間が一番綺麗になる瞬間を知っていますか?」


 俺は答えない。いや、答えられなかった。


「命が、静止する瞬間です。それまでの醜い呼吸や、汚らわしい思考がすべて止まり、ただの『物』に変わる。その瞬間の座標と、私の純粋な感動の記録。それが、あの数字です」


 男はポケットから、新しいコースターを取り出した。そこには、また別の数字が並んでいる。  そして、端の方には、赤黒い、指紋のような汚れが一点だけ付着していた。


「今日は、これを。……次に来る時は、もっと『大きなもの』を預かっていただきたい」


 男が店を出た後、俺は吐き気に耐えながら、預かったコースターを見た。  霊感は何も見せない。でも、俺の手のひらは、氷を握らされたように、感覚を失うほど冷たくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ