第7話 第一回負けない幼馴染み会議 その1
「それじゃあ第一回負けない幼馴染み会議を始めたいと思います!」
琴平舞衣の口からようやく本題が出てきたのだが俺は困惑を隠せなかった。
何だよ『負けない幼馴染み会議』ってのは?
そんな俺をおいてけぼりにしながら琴平舞衣はドヤ顔で話を続ける。
「それで何か良いアイデアはない?」
俺は『負けない幼馴染み会議』に対して疑問を言いたかったがそれを飲み込んだ。
理由はまたヘソを曲げられても困るからだ。
あのあと中々機嫌が戻らなかったのにまたヘソを曲げられても困る。それに機嫌を戻してもらう代償に俺の弁当に入っていた唐揚げの大半は琴平舞衣の胃袋に消えていったのだ。機嫌を戻す術を失った俺は大人しく彼女の質問に答えることにした。
「取り敢えず手っ取り早いのは坂出さんと大屋冨が付き合うことなんだが」
そこまで言ってチラッと彼女を見るのと少し申し訳なさそうな顔をする。
「今の状態だと難しいんじゃないかな」
「やっぱりそうか」
「うん。姫華も積極的にアピールしてるわけじゃないしからさ」
やっぱりそれは難しいみたいだ。まぁあっさり付き合える状態なら俺なんかに相談なんかしないよな。ふむ。そうなるとどうするのが良いんだろうか?俺が考えていると
「例えば善通寺くんが読んでるラノベ?ならどんな事をしたりするの?」
琴平舞衣がそんな事を言い出した。確かに俺には恋愛経験はないが多くのラブコメや恋愛小説を読んできたのだ。そっちから何かいい案がないか探すのも良いかもしれないな。
「そうだな。例えば幼馴染みモノで多いのは弁当を作ってあげたりとかかな」
「『おさこい』にもそんな話があった!」
どうやら買ったラノベをキチンと読んでいるようだ。主人公がお弁当を一所懸命作って渡すシーンは『おさこい』の中でも屈指の名エピソードだしな。それに幼馴染み系のラノベでは手作りお弁当は定番でもある。俺が1人で納得していると琴平舞衣が首を傾げながら疑問を投げかけて来た。
「でもさ、付き合ってもないのにいきなりお弁当を作るって結構ハードル高くない?」
俺は思わず黙ってしまった。確かにラノベ何かだと付き合う前に弁当を作ってくる話は良く見るけど現実では難しいかもしれない。
「ちなみに琴平さんはそういう経験はある?」
「逆に聞くけどあると思う?」
「まぁ好きな人がいないんだし、あるわけないよな」
「善通寺くんだっていないくせに!」
どうやらお弁当作戦は難しそうだ。というかここで俺は気になっていた事を確認してみることにした。
「そういや坂出さんは負けない幼馴染み作りのことを知ってるのか?」
「知らないし言ってない……」
琴平舞衣は俺から目をそらしながら答えた。
しかし俺には特に驚きはなかった。だって何となくそんな気がしていたんだもん。
「なら先ずは坂出さんに伝えるところから始めないとだな」
「それなんだけど姫華に言わずにそれとなく伝える方向で行きたいんだけどムリかな?」
俺の提案に対して琴平舞衣は、おずおずといった感じで意見を伝えてきた。
「何か理由でもあるのか?」
「急に2人の仲を応援とかしだしたら逆に怪しまれるんじゃないかなって」
「あぁ確かにそれはあるかも知れないな」
これまで恋愛関係の話にはあまり入らないようにしていたと言ってたのだ。それが急に応援すると言ってあれこれ世話を焼きだしたら怪しく思われても仕方ないのか。というか俺なら絶対に怪しむ自信がある!
「まぁでもいつかは坂出さんに協力してもらわないといけなくなると思うぞ」
「うん。それは分かってるんだけどね」
力なく笑う琴平舞衣を見て俺はそれ以上追求する事をやめた。たぶんだけど過去に何かあったんだろうなと流石の俺でも何となく分かる。
そうでなきゃ負けない幼馴染みの作り方なんて不確かなモノに頼ろうとするわけないからな。
しかし俺はそれを聞きたいとも思わないので敢えてスルーする事にした。
「なら別の方向から負けない幼馴染み作りをやっていくしかないな」
「別の方向?」
「そうだ。その前に確認なんだが坂出さんと大屋冨が付き合うのが一番の目標なんだよな?」
「そうだね!それが一番の目標になる」
そう言いながら力強く頷く琴平舞衣を見てから俺は続きを話していく。
「それで逆に一番最悪なのは大屋冨が琴平さんに告白してくることだよな?」
「それだけは絶対にダメ!!」
前のめりになりなが答える琴平舞衣の勢いに俺は思わず押されてしまう。その表情と勢いから本当に《《それ》》を避けたいのが伝わってくるが俺はそれどころじゃなかった。だって顔がめっちゃ近いんだもん!まつ毛長いとか目がデカいとか何かいい匂いするとかそんな事を考えてしまっていた。
このままでは俺の精神が持たないので何とか平静を装いながら彼女に話かける。
「わ、分かったよ。あと近いからちょっと離れた方がいいんじゃないか」
俺に指摘されて琴平舞衣もようやく顔が近い事に気が付いたようで顔を真っ赤にしながら慌てて離れていく。
「ごめんね。思ったより近かったみたい」
「いや、全然大丈夫だから」
彼女の謝罪に対して俺はよく分からない返事をしていた。何だよ全然大丈夫って!
俺は何とか空気を変えようと思い咳払いをしてから続きを話し出すことにした。
「ゴホンッ!それで話の続きなんだけど、要は大屋冨から告白されなければ良いってことになるよな?」
「確かにその通りだけど」
俺の言葉を聞いて未だに頬に赤みがさしているものの琴平舞衣が話を聞く姿勢になった。
「でもどうすれば大屋冨くんは告白してこなくなるの?」
その質問に対して俺は昨日ラノベを読んでいて思い付いた案を伝える。
「取り敢えず彼氏を作るのはどうだ?」
「却下で!」
しかしそんな俺の案に対して琴平舞衣は間髪入れずに却下したのだった。