第5話 協力者とは?
「それにしても善通寺くん!」
連絡先を交換した俺達はいまだに非常階段にいるのだが、さっきまで嬉しそうにしていた琴平舞衣が急に真剣な表情で話しかけてきた。
「休み時間に何か姫華の事をじろじろ見てたようだけど?」
何故かジト目で俺を見てくる。確かに坂出姫華を見てはいたが別に彼女だけを見ていた訳ではない。大屋冨光秀も見ていたのだが?
「善通寺くんは私の協力者なんだよ!なのに姫華の事をじろじろ見るのはどうかと思うんだよね!」
正直、俺には琴平舞衣の言っていることの意味が全く分からなかった。こいつ何言ってんの?
そんな俺を置いてけぼりにして彼女は続ける。
「もうちょっと協力者としての自覚を持って欲しいんだよ!」
腰に手を当てて頬を膨らませて不機嫌アピールまでして来る始末だ。理由は分からんが何かが気に入らなかったようである。
「確かに坂出さんを見てたけど、大屋冨の事も見てたぞ。昨日あんな話を聞いたんだ、どんな奴のなのか気になるだろ?あとじろじろは見てないからな!」
俺はきちんと事実を彼女に伝えた。特にじろじろ見ていたなど言いがかりはやめろ!すると彼女はさっきまでの不機嫌など無かったように
「さすが善通寺くん!ちゃんと協力者としての自覚があるみたいで安心したよ。じろじろ見ていた事は許してあげる」
ご機嫌で今度は俺を褒めてきた。てかじろじろは見てないって言ってるだろ!そこが一番重要だったんだからな!今度は俺がジト目で見たくなってきたじゃないか!
それにしてもこんなテンション高いやつだったのか?普段の琴平舞衣を知らないから言い切れ無いんだが何となく違和感を感じてしまった。
まぁ今まで話した事もないんだ、俺が抱いていたイメージと違っただけだろうな。そう納得していると
「それでどうだった?2人を見た感想は」
琴平舞衣は俺に2人を見た感想を求めてきた。
ふむ。協力者というからには正直な感想を伝えるべきだな!
「正直、同じグループで三角関係とか面倒くさいと思ったよ」
「そうだけど!そうじゃないでしょ!そんな事が聞きたかったんじゃないの!」
どうやら俺の感想を彼女はお気に召さなかったようだ。ちゃんと正直に伝えたのに。
「もっとこうさ、お似合いだね!とかいい感じだ!とかそう言う事を聞きたかったの」
なるほどね。2人の関係がどう見えるか聞きたかった訳か。それならば答えは決まっている。
「美男美女でお似合いだと思ったよ」
「そうそう!そういうのだよ!」
「でも何で付き合ってないんだ?あんな美少女でしかも幼馴染とくれば、とっくに付き合っててもおかしくないだろ?大屋冨もイケメンだから坂出さんに釣り合ってないとかで気後れしている訳でもなさそうだし」
それに琴平舞衣を好きになる位だから美少女が苦手って訳ではないだろうしな。俺はそこは声に出さなかった。その位の空気は読める。
「大屋冨くんの理由は分からないけど、姫華は結構奥手なんだよね。あんまりアピールみたいな事をしない子なんだよ」
「なるほどね。でもそんな坂出さんの好意によく気付いたな?」
「一緒にいる女友達は皆知ってる!他の男子は知らないけど、たぶん気付いてないのは大屋冨くんだけなんじゃないかな」
好意ダダ漏れなのに奥手な女子とそれに気付かない鈍感系幼馴染ね。ほんとどっかで聞いた事のある話だな。
「それで『おさこい』を読もうとしたわけか」
「そう!何か2人に似てるでしょ?」
「確かに似たようなシチュエーションだな」
「だから参考にしたいんだよね」
言いたい事は分かるがだからってライトノベルを参考にしようとする辺り恋愛経験の無さが見えてくるな。まぁ俺も人の事は言えないけど。
そんな琴平舞衣でさえ気付く坂出さんの好意に気付かないばかりか、よりにもよって坂出さんと同じグループの女子を好きなるとか大屋冨はどんだけ鈍感なんだよ。もしくは好意には気付いているけど気付かないフリをしているのか?そうなるとちょっと面倒だな。
色々と考え込んでいると突然肩に何かが触れるのを感じて俺は思わず顔を上げる。
どうやら琴平舞衣が俺の肩をつついた様だ。
突然の出来事にポカンとする俺を見ながら彼女は話しかけてきた。
「すごい考えてくれるんだね」
「そりゃ考えるだろ。何を当たり前の事を言ってんだよ」
全く誰の為に考えていると思ってるんだ!本来ならこんな面倒くさいことになんかに首を突っ込む気は無かったんだよ。おかげで俺の平穏な学校生活が脅かされかねない。まったくあの時に頷いた俺を殴りつけたくなる!
「当たり前なんだ」
琴平舞衣はそう呟くと嬉しそうに笑い出した。
何がそんなに嬉しいのか分からない俺は思わず首をひねってしまう。そんな俺を見て彼女は先程までとは違う弾んだ声色で
「頼りにしてるよ善通寺くん!」
そう言って俺の肩をポンポンと叩いてくる。
今の流れでどうしてそうなった?俺は思わずため息をついてしまう。
「そんなに頼りにされても困るけどな」
「そんな事ないと思うけどね」
ご機嫌な琴平舞衣は手すりに手をかけ鼻歌を歌いだした。急にご機嫌になった彼女に困惑していると
『くぅ〜〜〜!』
何処かで聞いた音が聞こえた。さっきまでご機嫌だった琴平舞衣は鼻歌もやめてしまい、俯いてプルプルしている。顔は見えないが耳が真っ赤だ。たぶん顔も真っ赤なんだろうな。
「お腹も鳴った事だし今日はここまでだな」
「だから言わないでって言ったでしょ!何でいうの!ほんと何で言うかな!」
顔を真っ赤にして喚く琴平舞衣を見て俺は思わず笑ってしまった。
「今笑ったよね!ほんと信じらんない!」
「ごめんって。今度何か奢ってやるから」
俺は彼女をなだめながら非常階段の扉を開けて旧校舎に入っていく。俺の後を追いかけながら
「絶対デザートも付けてやるんだから!」
不満顔で追加を要求しくる琴平舞衣を見て俺はまた笑ってしまうのだ。
まぁ頼られたし仕方ないな。面倒くさいが頼られたのならやらない訳にはいかない。そんな言い訳をしながら俺は昨日よりも少しだけやる気を出すことを決めたのだった。