第4話 称号ゲットたぜ!
負けない幼馴染を作るため琴平舞衣に協力する事が決まった次の日、俺は休み時間の教室で自分の席から1人の女生徒を見ていた。
腰の辺りまであるロングヘアで、くっきりとした目鼻立ちをしているが切れ長の目は少しキツめの印象が強い。身長は女子の中では高い方でスタイルもよく、男子からの人気も高いが女子からの人気の方が高いというのは俺の友人からの情報である。そんな彼女の名前は坂出姫華で例のイケてるグループに所属している。
坂出姫華を見ていると情報元である友人が後ろから声をかけてきた。
「なんだ?今度は坂出さんを見てんのか?」
「見てないよ。ボーっとしてただけだ」
しかし友人は俺の発言などなかったように自分の言いたい事を続ける。
「琴平さんも美少女だけど坂出さんも美少女だよな。クールビューティーって感じでさ」
そう琴平舞衣とはタイプは違うが坂出姫華もかなりの美少女なのである。ほんとあのグループどうなってんだろな?入団審査とかあるんだろうか?そんなどうでも良いことを考えている間も友人は話を続けている。
「坂出さんと幼馴染とかほんと羨ましいよな」
そう言って坂出姫華と話をしている男子生徒に目を向けていた。俺も釣られてそちらを見る。彼の名前は大屋冨光秀。短髪で爽やかさに溢れたイケメンで、高身長にスポーツ万能というオマケ付きである。そしてこれまたイケてるグループに所属している男子なのだ。
「俺も美少女の幼馴染がいたらなぁ!」
「幼馴染ねぇ」
幼馴染に思いを募らせる友人の言葉を聞いて俺は思わず呟いてしまった。昨日の事を思い出すとどうしても幼馴染を羨ましいと思えない。
あれから琴平舞衣は色々と情報をくれたのだ。
彼女の言っていた友人とは坂出姫華のことで、
その坂出姫華の幼馴染兼想い人が大屋冨光秀なのである。しかも大屋冨光秀は琴平舞衣の事が好きらしい。そして全員同じグループなのだ。
これは面倒くさすぎるだろ!なんだよその絵に描いたような三角関係は!
俺は思わずため息をついてしまった。
友人はそれを目ざとくみつけると呆れた様に言ってくる。
「何だ?また平穏がどうたらか?」
「当たらずとも遠からずだ。やっぱりキラキラした青春なんて面倒だと思ったんだよ」
「いいじゃねぇかキラキラした青春!俺は憧れるね!」
友人がまだ見ぬ青春に想いを馳せているとチャイムが鳴って先生が入ってきた。なんとも短い青春だったな。俺は心の中で友人に手を合わせながらノートを開くのだった。
授業が終わって迎えた昼休み今日は弁当を持って来ていないので購買にでも行こうと机の横にかけてあったカバンから財布を取り出すために座ったままた身を乗り出したところにちょうど誰かがやって来るのが見えた。この時点で俺は嫌な予感がしていたが、いつまでも下を向いている訳にもいかず顔を上げるとそこには予想通り琴平舞衣が立っていてた。顔を上げた俺と目があった彼女は然大きな声で話しかけてきた。
「善通寺くんちょっといいかな?あれだよあれ!」
あれってなんだよ!もうちょいマシな誘い方はなかったのかよ!突然の琴平舞衣の登場に俺の友人は驚きも隠さず俺達の顔を交互に見てくるし、よくわからない誘い文句のせいで近くのクラスメイトからも変に注目を集めてしまった。
声をかけたもののどうして良いか分からず目をウロウロさせる彼女に俺はため息を我慢しながら声をかける。
「先生が呼んでたんだよな?」
俺の言葉にそれだ!みたいな顔をしながら
「そうそう!先生が呼んでるから一緒に来て欲しいんだよね」
そう言って俺を教室から連れ出したのである。
先生に呼ばれたと分かり注目していた友人やクラスメイト達は興味を無くしたようで俺は1人胸を撫で下ろした。これで変な噂を立てられる事もなさそうだ。俺の平穏な学校生活が危うく脅かされるところだった。軽い足取りで俺の前を歩く、脅かそうとした原因に話しかけた。
「もうちょいマシな誘い方出来ないのかよ!」
「だって何て声かけていいのか分からなかったんだもん」
琴平舞衣は少し拗ねた様にそう言ったあと
「男子を誘うなんて初めてだったし」
恥ずかしそうにそう付け足すのだ。彼女の『初めて』という言葉になんとも言えない気持ちになってしまい、今さらながら自分が女子に呼び出された事実に気付いて俺は余計に恥ずかしくなってしまった。文句を言うつもりがそれどころでは無くなってしまったじゃないか。
「そ、それで何処に行くんだ?」
俺は恥ずかしさを誤魔化す為に話題を変えた。
彼女も話題が変わったことでいつもの調子にもどったのか
「旧校舎の非常階段だよ。あそこならあんまり人がこないからね」
そう言いながら旧校舎に向かう渡り廊下の方に足を進めている。なるほどね確かにあそこなら人が来ないから人に聞かれたくない話をするのにもってこいだな。そう思い彼女の後をついて行くのだった。
非常階段に着くと予想通り誰も居なかった。
安心する俺の横で琴平舞衣は
「私、非常階段って初めて来たけど意外と悪くないね!」
なんて言いながら楽しそうにしている。何なら手すりから身を乗り出して上から見る景色に興味津々なのだ。こいつは何をしに来たのかちゃんと覚えてるんだろうな?俺は不安になり
「それで突然呼び出して何なんだ?」
彼女に呼び出した理由を聞いてみた。すると目をパチクリさせたあとハッとした顔になり。
「もちろんだよ!何の為に呼び出したと思ってんの!」
そんな何とか取り繕う姿を見て余計に不安になってしまう。もちろんって何だよ!何の為に呼び出したのか聞いたのは俺なんだが?俺の呆れた目に気付いたのか琴平舞衣は咳払いをして
「あのね、善通寺くんの連絡先を教えてよ!」
そう言ってスマホを取り出すと俺の方に差し出してきた。何だ?坂出姫華と大屋冨光秀の事を話したいんじゃないのか?
「私は昨日帰ってから気付いたんだよ!善通寺くんの連絡先を聞いてないって!」
確かに聞かれてないがそれが何だと言うんだ?
「お互いの連絡先が分からないとこれから色々不便でしょ?だから教えてよ」
「まぁ確かにその通りだな。交換しておくか」
お互いに連絡交換をするという恐らく最重要事項をすっかり忘れてしまう辺りに恋愛経験ゼロな部分が如実に表れている気がして、この先が思いやられるな。そう思う俺とは対照的に
「だよね!良かった!私、男子に自分から連絡先聞くのとか初めてだったから断られたらどうしようかと思って緊張しちゃったよ」
琴平舞衣はそんな事を言いながら嬉しそうに俺と連絡先を交換しようとするのだ。こいつ何なの本当に!そんな事を嬉しそうに言うのはやめて欲しいんだが!
こうして俺はクラスでも一番イケてる女子の連絡先をゲットすると同時に、初めて琴平舞衣から連絡先を聞かれた男という称号もゲットしたのである。