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第3話 琴平舞衣の相談事

「それでね、善通寺くんに相談したいことなんだけど」


あの後カレーとパフェをペロッと食べ予想通りご機嫌になった琴平舞衣は追加で頼んだアイスティーを飲みながら本題を話し始めた。

あまりの食べっぷりに俺はここに来た理由をすっかり忘れていた。


「そうだったな。それで相談ってのは?」

「相談っていうか教えて欲しい事というか」


そう言って彼女はもじもじしている。

あれだけの食べっぷりを見せつけておいて今更何を恥ずかしがるというのか。まったく女心は俺には難し過ぎる。しばらくもじもじしていたのだがようやく決心がついたのか深呼吸をすると口を開いた。


「あのね、幼馴染が負けない方法を教えて欲しいの!」

「はい?」


俺は琴平舞衣の発言の意味が分からず首を傾げてしまった。そんな俺に彼女は続ける。


「負けない幼馴染だよ!負けない幼馴染の作り方を教えて欲しいの!」

「負けない幼馴染?」

「そう!善通寺くんが言ってたんだから」

「俺が言ったのか?」

「言ってたじゃん!教室で幼馴染は負けちゃいけないって!」


俺が教室でそんな事を言うはずがないんだが?教室でなんて……あっ!?言った!確かに言ったけど!それはライトノベルの話であって現実の話ではないんだが。俺は思わず頭を抱えたくなった。そんな俺を見た琴平舞衣は得意気な顔をしながら


「どうやら思い出したようだね!きちんと自分の発言には責任を持たないと」


まるで俺に責任があるかの様に言ってくるのではないか。こいつまじで何言ってんだ!

さっきの腹が鳴った件といい琴平舞衣に対するイメージが変わってきている。別に美少女だから完璧でいて欲しいなどとは思っていないが、ここまで崩れてしまうと残念な気持ちの方が強くなってしまう。そんな俺の内心など知らない彼女はなおも話を続けていく。


「というわけで、善通寺くんは私に負けない幼馴染の作り方を教えるのです!」


さっきまでもじもじしていたのが嘘のように俺を人差し指で指差してドヤ顔でそんな事を言い出した。それを見た俺は大きなため息をついて


「取り敢えず最後まで話を聞かせてもらう。

どうするかはそれからだ」


そんな答えを返していた。自分でもどうかしていると思う。ここでおかしな事を言うなと突っぱねても良かったはずだ。それが一番面倒事にならなかったのに、でも俺はそうしなかった。何故なら見てしまったのだ。俺を指差したその手が少し震えているのを。

だから俺は琴平舞衣に色々と思うところはあったが取り敢えず一旦全てを飲み込んで話を聞くことにしたのである。


「それで負けない幼馴染の作り方を教えて欲しいってことだけど、琴平さんが幼馴染と上手くいくように手伝えってことかな?」

「ううん、私には幼馴染はいないよ!」

「はい?幼馴染いないの?」

「うん幼馴染なんていたことない」


負けない幼馴染の作り方を教えて欲しいと言ってきた本人に幼馴染はいないとはどういうことなんだろうか?困惑する俺に彼女は答えを教えてくれた。


「幼馴染がいるのは、私じゃなくて私の友達なんだよね」

「友達なら琴平さんが相談にのればいいんじゃないの?」

「それはね、えっと……」


俺の当然とも思える疑問に彼女は何やら答えにくそうにしている。


「私ってさ実は恋愛経験ないんだよね。好きな人も今までいたことないの」


俺は彼女の言葉に耳を疑った。あれだけイケてる琴平舞衣が恋愛経験もない上に今まで好きな人すらいた事が無いなんて言うのだ。


「意外でしょ?」

「まぁそうだな意外だった」

「だよね。私って結構モテるから、恋愛経験豊富みたいに周りから思われててさ」


彼女はそう言って苦笑いしている。その顔を見れば彼女が本当の事を言っているのが分かる。


「普段は恋愛系の話とか全然入っていかないし、話ふられても適当に合わせてたんだけど、今回はそうもいかなくなったんだよね」


なるほどね。恋愛経験ないのに恋愛話をされるのはキツイよな。よくわかるぞ!


「それで相談されて困っていたところで俺の話を聞いたってわけか」

「そうなんだけど、そうじゃないっていうか」


彼女はまたもじもじしながら言いにくそうにしている。どんだけ言いにくい事があるんだよ!


「とりあえず全部話してくれ。じゃないと俺も判断できない」

「じ、実はその友達に相談された訳じゃないんだよね。でも2人には上手く行って欲しいなぁなんて思ってるんですよ」

「ただのお節介ってことか?」

「お節介というか私のためというか……」


琴平舞衣は目をそらしながらそんな事を言い出したのだ。さすがにこれは俺でも分かる。

なるほどそういう事か。


「その友達の好きな男が琴平さんの事を好きなんだな?」

「はい。その通りでございます」


琴平舞衣は観念したように白状したのだ。

俺は思わず天を仰いでしまった。こんな話聞くんじゃなかった。本当に聞きたくなかったよ。チラッと彼女を見ると、不安そうに上目遣いで俺を見ている。やめてくれ!そんな目で見つめないでくれ!俺は大きなため息をついた。


「なるほど、だから俺に相談したんだな」

「うん、こんなの友達にも相談できないし、

でも恋愛経験も無いしどうして良いか分からなかったんだけど、善通寺くんが話してるのを聞いて、これだ!って思ったんだよね」


これだって思わないで欲しかったんだが!

まぁでも不安な時にそれに関係する事を話しているのを聞いたら藁を掴む思いにもなるのか。


「それで善通寺くんに相談する前に、自分でも勉強しようと思って本を買いに行ったら善通寺くんがいたというわけです」


なるほどね。だからあの時、絶望した顔になっていたのか。それに幼馴染モノのライトノベルばかりを買っていた理由も分かった。色々繋がってちょっとスッキリしたぞ。だからといってライトノベルを恋愛の教科書にするのはどうかと思わんでもないのだが。


「だいたい話は理解したよ」

「ほんとに!よかった」


琴平舞衣は俺の言葉に安心したのか少し嬉しそうにしている。しかし彼女は大きな見落としをしている。それはちゃんと教えてやらねば。


「理解はしたが一つ大きな問題がある!」

「問題?」

「俺も恋愛経験ゼロなうえに今まで好きな人もいたことがない!」

「それって私と一緒じゃん!」

「そう一緒だ!だから恋愛なんて詳しくないどころか全く分からん!」


これが琴平舞衣が見落としていた事なのだ。

恋愛経験ゼロのやつが恋愛経験ゼロのやつに相談するとか何の意味があるというんだ。だからそもそも俺に相談する事が間違っているのだ。

彼女には悪いがこれでこの話は終わりである。

俺がそう思っていると


「じゃあ恋愛経験ゼロどうし一緒に考えていけばいいよね!」


などと何故かやる気に満ちているのである。

なんなら自分と同じ恋愛経験のない奴を見つけてちょっと嬉しそうなのだ。


「いや、聞いてたか?俺に相談しても大した助けにならないんだぞ」

「でも、負けない幼馴染の作り方は分かるんでしょ?」


琴平舞衣は小首をかしげながら可愛らしくそんな事を言うのだ。俺はその仕草に思わず目を奪われてしまい言葉に詰まってしまう。そんな俺よりも先に彼女が言葉を続ける。


「それに私の秘密を沢山知ったんだよ!だから責任は取ってもらわないと」


そう言って上目遣いで俺を見てくる。縋るように潤んだ瞳で見つめられた俺は無意識に頷いてしまったのだ。完全に油断していた。琴平舞衣が美少女だという事をすっかり忘れていたのである。そして知らなかったのだ。美少女の上目遣いの破壊力の凄さを。ここまでの話し合いなどまるで無意味であったかのように俺は彼女の上目遣い一つで陥落したのだ。ほんと何やってんだよ俺は!


頷いた俺を見て満足そうにしている琴平舞衣は

手を差し出してくる。


「これから宜しくね!善通寺くん!」


今さら無理だと言い出す事も出来ない俺は無言でその手に応じるしかなかったのだ。

こうして恋愛経験ゼロの俺とクラスのイケてる

女子、琴平舞衣の負けない幼馴染作りが始まったのである。

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