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第2話 俺にはデリカシーがないらしい

琴平舞衣が来店した次の日も俺は変わらず店番をしていた。本当は店番の日では無かったのだが爺ちゃんに用事が出来たらしく、午前中だけ店番をする事になったのだ。そして昨日と同じくカウンターで暇を持て余している。


彼女はあの後、お釣りと本を受け取り最後に「ありがとう」と言って帰って行った。

足早に店から出て行く姿を見るに、よっぽど知られたく無かったんだろうな。

まぁイケてる女子がライトノベルを読んでる事を話した事もないクラスメイトに知られるとか確かに恥ずかしいかもな。


そんな事を考えていると『チリーン』と言う音がしたので声かけをする。


「いらっしゃいませー」


もはや条件反射である。悲しいかなあの音が聞こえたら声かけをする体になってしまった。

いつも通りチラッとお客の方を見ると若い女性のようだ。俺は嫌な予感がしたが流石にそれは無いだろうと思い、手に持っていた本に視線を落としたのだが


「ちょっと良いかな?」


入店した若い女性がカウンターの前に立って声をかけてきたのだ。すでに誰か予想はついていたので出来れば反応したくなかった。しかし、この近距離で話しかけられれば、さすがに無視をする訳にもいかず渋々ながら視線を上げるとそこには俺の予想通り琴平舞衣が立っていた。イケてる女子がまさかの2日連続でのご来店である。


「何かお探しですか?」


俺はあくまで店員として接しようと試みたが、その試みはあっさりと退けられた。


「今日は本を買いにきたんじゃないの。善通寺くんに話があって来たんだよ」


クラスの男子が聞けば涙を流して喜びそうなセリフだったが、俺は出来れば本を買いにきて欲しかった。まぁ嘆いても仕方がない。彼女が何を言いに来たのか予想できたので


「心配しなくても昨日の事なら絶対に誰にも言わないから安心してくれ」


彼女が話したいであろう事を伝えてさっさと終わらせることにした。そんなに信用なかったかな?まぁよく知らない男子なんかを簡単に信用なんて出来ないよな。そう思っていたのだが、


「その事なら心配してないよ。善通寺くんなら言わないだろうなって思ったから」


彼女はあっけらかんと答えた。

どうやら俺の予想は外れてしまったようだ。

というか俺が言う事ではないが、知らない男の事をよくそんなあっさり信用できるな?

逆に俺が心配になってきたぞ。

しかし、そうなると彼女が何でここに来たのか分からなくなるんだが?


「善通寺くんに相談というか、聞いてもらいたい話があって」


彼女はもじもじしながらそんな事を言う。

俺に相談とか全く予想外すぎる。こんなの面倒事の予感しかしないんだが!正直に言うと相談など聞きたくなかった。でもまぁ彼女は、わざわざ時間を使ってここまで来ているのだ。それを無碍にするのもなんだかなぁ、仕方がない話くらいは聞くのが礼儀か。そう思った俺は彼女に話しかける。


「午前中は店番があるからそれが終わってからでも良ければ聞くよ」

「ほんとに!ありがとね」


そう言って笑顔になった彼女を見て、やっぱり琴平舞衣は美少女なんだな、なんて思ってしまうのだった。


琴平舞衣にはあと30分ほどで店を出れる旨を伝え、近くの喫茶店で待ってもらう事にした。

そして予定より早く爺ちゃんが戻って来たので俺は彼女が待つ喫茶店に向かっている。それにしても相談ねぇ?正直心当たりは全くない。

なぜなら同じクラスで席も近いのにこれまで話した事がないからだ。まぁ分からない事を考えても仕方がない。喫茶店に着いた俺は店内に入っていく。


店内を見渡すと奥の角席に待ち人がいた。いやこの場合は待たせ人なのか?しかしイケてる女子は喫茶店で座っているだけでも絵になるもんだな、なんて事を考えながら声をかける。


「待たせてすまんね」

「ううん。こっちこそ無理聞いてもらって、

ありがとね」


俺は彼女の向かいの席に座ってメニューを手に取った。いまは昼過ぎで、朝から何も食べてない俺はナポリタンが目に入った。ここのナポリタン美味いんだよなぁ、そう思いながらテーブルをチラッと見ると彼女は飲み物しか頼んでおらず、これでナポリタンは頼めないよな。

そう思っていると


『くぅ〜〜!』


お腹の鳴る音が聞こえた。まさかと思いながらメニューから視線を上げると顔を真っ赤にして俯いている琴平舞衣がいた。俺のお腹は鳴っていない。ということはお腹の鳴る音の発生源は、1人しかいないということだ。暫くお互いに無言が続いていたのだが、俯いている彼女は沈黙に耐えられなかったのかそれとも羞恥からなのかプルプル震えている。


「腹が減ったのか?」


俺は直球で聞いた。ど真ん中にストレートを投げ込んだのだ。俯いていた彼女は顔を勢いよくあげると真っ赤な顔をさらに赤くして


「何で言うかな!こういうのは聞こえないフリして何も言わないのが優しさなんじゃないの?

ほんと何で言っちゃうかな!」


さっきまでの沈黙が嘘の様に喚きだした。

やっぱり彼女のお腹の音のようだった。

誰の音か確認出来て満足した俺は、すごいジト目で俺を睨んでいる琴平舞衣に話しかける。


「俺は朝から何も食べてなくて腹ペコなんで、ナポリタンを頼もうと思う。琴平さんも何か食べる?」


そんな俺の気遣いに対して琴平舞衣は


「この状況でよくそんなこと言えるよね!

お腹の鳴った女子相手に『何か食べる?』なんてほんと信じらんない!」


そう言ってソッポを向いてしまった。

頬を膨らませて完全にヘソを曲げてしまったようだ。俺の気遣いは完全に裏目に出たようだ。これは困ったことになったな。俺の口はすでにナポリタンになっている。しかし、この状況でナポリタンを頼めるほど空気が読めない男でもない。仕方ない奥の手を使うか。


「ごめん俺が悪かったよ。ちょっと無神経だったよな。お詫びといっちゃなんだけど何か奢らせて欲しい」


俺の言葉に琴平舞衣が少しだけ反応した。

おっ手応えがあったようだ。ナポリタンの為に俺はもう少し頑張る事にした。


「ここは喫茶店だけど食事も美味いんだよ」


そう言ってメニューを差し出した。

彼女は無言で受け取るとメニューに目をやって


「じゃあカレー」


そう言ってメニューを突き返してきた。

何とかなったようだ。これで俺もようやくナポリタンを注文できる。俺がメニューを受け取って店員を呼ぼうとすると


「女の子に恥ずかしい思いをさせたんだから、パフェも付けてよね」


ソッポを向いたまま琴平舞衣はそんな事を言い出した。全く関連性が見えなかったが、その言動が俺の思っていた琴平舞衣のイメージと余りにもかけ離れていて、そのギャップに俺は思わず笑ってしまい


「分かった。カレーとパフェね」


そう言って店員に注文を伝える。

俺に笑われた琴平舞衣は頬を膨らませてまたヘソを曲げてしまったようだ。たぶんカレーが来たら機嫌戻るんだろうな。俺は何となくそう思った。


それにしてもやっぱりめっちゃ腹減ってたんじゃねぇか!俺は彼女がもっとヘソを曲げてしまわないように心の中で笑うのだった。

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