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第1話 出会いは突然に

「ふぁ〜!暇だなぁ」


俺は欠伸をしながら頬杖をついてボーっとしていた。ここは『善通堂書店ぜんつうどうしょてん』という俺の爺ちゃんが営んでいる本屋である。

そこのレジカウンターで俺は店番の真っ最中というわけだ。こうやって俺は手伝いと言う名の労働をさせられているが、まぁ一応時給換算でお小遣いは貰えるので大人しく従っている。

今日は土曜日で学校が休みの為、朝から店番をしているのだが来店者は1人もいない。欠伸の一つくらい出ても仕方がないというわけだ。


俺が友人にオススメを聞かれていたのもこれが理由だ。本屋で働いているので色んな情報が入ってくるし、見本誌など他の人より本を読む機会も冊数も多いのだ。やつにはライトノベルのオススメを聞かれたので答えたが専門にしている訳ではない。だから俺はオタクではない!


店番の最中ではあるが暇なので本を読んでいると『チリーン』という店のドアが開き誰かが入店した事を知らせる音が鳴った。


「いらっしゃいませ〜」


俺は本を読みながら声かけをする。お客が来たからといって姿勢を正す事などしない。

チラッと入店したお客を見たが、服装から若い女性だと分かったのでこれ以上見る必要はないと判断して視線を下げまた本を読み始めた。

俺は店で店員にジロジロ見られたり、声をかける機会を伺われるのがめっちゃ嫌いだ。

だから店番中の俺はレジに来るまでお客を見ない様にしている。それにしてもこんな寂れた本屋には不釣り合いなくらいオシャレだったな。

そんな事を考えながら俺はまた本を読み始めるのだった。


しばらくすると女性客はレジにやってきて


「これ下さい」


と言って本を数冊カウンターに置いた。


「ありがとうござます」


俺はそう言って立ち上がり本を手に取って、

フィルムを剥がしていく。バーコードを読み込みながら本を確認すると全て幼馴染モノのライトノベルだった。

ほほぅ!なかなかいい趣味してますね。俺は心の中で思わず唸ってしまう。選んでいるタイトルは上質な幼馴染モノばかりで、俺が友人に勧めた『おさこい』も購入しているではないか。中々見どころのあるお客さんだ。


因みに俺はここまで一度もお客の顔を見ていない。これにも理由がある。こんな個人店にわざわざ足を運ぶということは、何を買うか知られたくない事が多いからである。だから俺は基本的にお客の顔を見ないのだ。店員にジロジロ見られると恥ずかしくなってもう二度とその店には行けなくなってしまう。そんな事にならない様になるべく顔を見ないようにしている。これも経験則からくる俺なりの接客方法なのだ。


「5点で4180円になります。カバーはお掛けしますか?」

「………」


俺の問いかけに返事がない。

聞こえなかったのか?


「カバーはお掛けしますか?」


俺はもう一度問いかけたがやはり返事がない。

不思議に思い俺はようやくお客の顔を見た。

そして俺はなぜ返事がないのか理解した。

なるほど、そりゃ返事も出来なくなるよな。

お客は俺がここにいる事に驚いていたのだ。

俺の事を知っている人物、そうお客はクラスメイトだったのだ。しかもただのクラスメイトなどではない。イケてる女子の琴平舞衣が俺の目の前で固まっているのだった。


俺は琴平舞衣には気付いてない風を装ってもう一度声をかける。


「お会計は5点で4180円です。カバーはお掛けしますね」


そう言って本にカバーをかけていく。

俺はあなたには気付いていないので、あなたもお客として接してくれというメッセージを込めたのだが


「善通寺くんだよね?なんでいるの?」


琴平舞衣は俺の気遣いを自らぶち壊してきた。

何で声かけるかなぁ!わざわざ気付いてないフリをしたのに。俺はワンチャンに賭けて


「5点で4180円です」


そう言って普段はしない営業スマイルを繰り出した。


「やっぱり善通寺くんだよね?」


俺は賭けに負けてしまった。ここまで来たら仕方がない。相手をするしかないか。


「そうですね。私は善通寺くんです」

「やっぱり!何でいるの!」

「ここ俺の爺ちゃんがやってる店なんだよ」


琴平舞衣は俺の言葉を聞いて、絶望した様な顔になっている。そんな顔をするくらいなら声をかけてくるなよと思わずため息をつきそうになったが何とか我慢した。


「お会計は4180円です。あと俺はここの店員だから、ここで見た事は誰にも言わない。そんな事したら店の信用問題になるからな」


誰々がこんな本を買いに来たなど誰が言うか。そんな店になど行きたくない。だから俺はそんな事絶対にしないのだ。

しかしイマイチ信用がないのだろうか琴平舞衣は依然として動く気配がない。

俺はついにため息をついてしまった。


「お会計は4180円になります。あとこの事を利用して俺が話しかけることもないぞ。それも信用問題になるからな。そもそも誰がどんな本を買おうが興味がない!本くらい自分の好きな物買えば良いだろ」


俺は言い切ったあと、最後にもう一言だけ追加した。


「お会計は4180円になります」


とびきりの営業スマイルのオマケ付きでだ。

琴平舞衣はようやく財布から5000円札を取り出して渡してきた。俺はそれを受け取り


「お買い上げありがとうございます」


そう言ってもう一度営業スマイルをお見舞いしてやったのだ。

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