第七話『選ばれなかった正義』
“千罪の剣鬼”との死闘の中で、ナユタはある「真実」に触れる。
それは、剣鬼がなぜ“血塗れ”となったのか──
そして、ナユタ自身が“選べなかった”未来の意味とは。
激突した剣と剣の残響が、紅く染まった空間に消えていく。
ナユタは肩で息をしながら、“千罪の剣鬼”を見据えていた。
「……まだ、立つか……」
剣鬼の仮面が砕けかけている。
だが、その奥の顔は、意外なほど穏やかだった。
「お前の中にある“怒り”は、俺のそれとよく似ている。
救えなかった後悔。選べなかった道。……そして、正しさを信じ続ける愚かさ」
剣鬼が静かに剣を地に伏せる。
その瞬間、紅い空間に“記憶の欠片”が舞い散った。
──幼い少女の泣き声。
──焼き払われる村。
──そして、剣を握った一人の男が、愛する者を守るために、“敵”を斬り続けた日々。
「正しさのために、俺は千の命を奪った。
けれど誰一人、“正義だった”とは言わなかった」
それが、“千罪の剣鬼”と呼ばれる理由。
彼は戦いの末に英雄となれず、罪人として歴史から消された。
ナユタは問う。
「……それでも、あなたは剣を捨てなかった」
「守りたいものがあったからな。お前も……そうだろう?」
紅の領域がゆっくりと崩れていく。
その中心で、剣鬼が最後に差し出したのは──一振りの、血を吸った剣だった。
「これは、お前に託す。“選ばれなかった正義”の代弁者として」
ナユタが剣を受け取ると、赫光の紋章が再び輝き、未来のヴィジョンが走る。
──焼け落ちる城。
──泣き崩れる少女。
──暗殺される王。
そして──再び、柱が目覚めようとする気配。
「次の柱は……“腐敗の花嫁”……」
そう呟いた時、空間の外から一つの声が届いた。
「やはり“あなただった”のですね、赫光の継承者」
現れたのは、黒髪の少年──いや、彼はフードを外し、その名を告げた。
「俺の名はリヒト。かつて“十三柱”の一つと契約し、“未来を拒んだ者”」
新たな“選定者”が姿を現す。
ナユタの旅は、さらに深く、危うい“選択”へと踏み込んでいく。
第七話、お読みいただきありがとうございました!
今回は“千罪の剣鬼”の過去と、その“正しさの代償”を描きました。
ナユタの中でもまた一つ、柱たちの存在と自分の“選択”の意味が深まった回です。
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