第六話『血塗れの剣と断罪の影』
第二の柱──“千罪の剣鬼”の試練が始まる。
そして、ナユタが対峙するのは、自分の“正しさ”の価値だった。
地下の石畳に、金属が擦れる乾いた音が響いた。
“選定者の収容所”の地下奥深く──そこには、異様な空間があった。
まるで血で塗り固められたような黒と紅の世界。
「この空間そのものが、“剣鬼”の領域……?」
ナユタの言葉に、セドが頷いた。
「“千罪の剣鬼”は自らが殺した者の魂でこの領域を作ってる。
この空間に踏み込んだってことは、もう試されてるってことさ」
そのときだった。
ザシュ──。
何かが切られる音とともに、紅の空間に無数の“幻影”が現れた。
「……父さん……?」
その中にあったのは、かつてナユタが愛し、そして失った人々だった。
母、父、友、そして──未来に見たはずの少女。
「違う、こんなはずじゃ……!」
幻影たちは何も語らず、ただ剣を振るう。
彼らの目に宿るのは、恨みでも、怒りでもなく──“正義”。
『なぜ、お前は助けてくれなかった?』
ナユタの膝が崩れかける。
心が砕けそうになるその瞬間、別の声が響いた。
「立てよ、赫光の継承者。お前には“選ぶ”力があるんだろ?」
それは──黒髪の少年だった。名乗らなかったはずの、異様な存在感を放っていた彼。
「この試練は“力”だけじゃ越えられねぇ。“赦せるか”が問われてんだよ。自分を、他人を、そして……殺した誰かを」
ナユタは剣を握る。
彼が視た未来にあった、すべての苦しみを力に変えて──
「赦しなんて知らない。でも、それでも……俺は、抗う」
幻影の中にいた“剣鬼”が、その瞬間、実体を得る。
全身に呪符を纏った鬼面の剣士。
彼の背には、無数の魂が剣となって突き刺さっている。
「お前が選んだ“未来”に、代償は払ったか?」
その問いに、ナユタは静かに頷いた。
「まだ、払い続けてる最中だ。……これがその答えだ!」
赫光の紋が再び燃え上がる。
未来が、一瞬だけ揺らいだ。
次の瞬間、紅い斬撃が空間を裂く。
“選定者”ナユタと“剣鬼”の戦いが、今、始まる。
第六話、お読みいただきありがとうございました!
今回はついに“千罪の剣鬼”との対峙が始まりました。
幻影を使った心理的な試練と、彼の“赦し”のテーマが今後の鍵になります。
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