第四話『赫光の記憶』
第一の試練「亡者の海」を乗り越える戦いの終盤。
ナユタの“赫き未来”に隠された可能性、そして過去との決別。
ここで初めて、彼自身が「力の核」に触れます。
──息が苦しい。
死者の手に足を掴まれ、甲板の隙間へと引きずられる。
黒い海はどこまでも底なしで、過去に選ばなかった人間たちの顔が、水面下にちらついていた。
(ああ、俺は……)
選べなかった。
助けられなかった。
それでも生きて、ここまで来て──
また「未来を選ぶ」などと、よくも言えたものだ。
「その通り。お前は“選ばなかった責任”から逃げているだけだ」
誰かの声がする。いや、違う。これは──
──俺自身の声。
内なる自己が、俺に牙を剥く。
「視えた未来に、ただ怯えて、震えて、傍観者のふりをしていた」
「違う……違う……!」
俺は叫んだ。だが、声にならない。
その時だった。
「まだ、あなたの赫き光は、消えていない──」
ふと、温もりが触れた。
闇の海の中で、少女の姿が浮かび上がる。
長い黒髪、緑の瞳。
──シア。第六柱と繋がりながら、なぜかこの海に侵されていない存在。
彼女が手を差し伸べていた。
「あなたはまだ、“選べる”。たとえ過去を救えなかったとしても──」
その手を、俺は掴んだ。
視界が、赤く染まる。
胸の奥から、熱がほとばしる。
──赫光。
それは、未来を切り開く意志の色。
“代償”と引き換えに手にした、俺だけの“選択する力”。
「選び直せるなんて甘いことは言わない。でも、俺は──」
地を蹴る。亡者の海から跳ね上がる。
「俺はこれからの未来を、俺自身で切り拓いてやる!」
赫き光が、黒い水を裂いた。
過去に沈んだ幻影たちが、赤く光に融けていく。
そして、海の中央。
“船幽霊”は、静かにその姿を崩し──
「あなたには、“過去と向き合う資格”があるようね……赫光の継承者」
微笑みと共に、霧のように消えた。
……次の瞬間、世界が裏返るように、ナユタの視界は真白に包まれた。
お読みいただきありがとうございました!
この回で第一の柱「亡者の海」との対峙が決着します。
ナユタが初めて“赫光”を発現させ、試練の本質に近づいていきます。
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