第三話「船幽霊は夢を喰らう」
第一の試練が始まります。
“未来を見る力”に代償を負った少年ナユタが、初めて「柱」と真正面から対峙する瞬間。
彼にとってこれは、希望か、それとも破滅か──
──波の音が聞こえる。
目を開くと、そこは薄闇に包まれた海だった。
空も、地も、すべてがどこか曖昧で、遠くに朽ちた帆船が漂っている。
「ここが、“亡者の海”……」
試練は、突然始まった。
ルザリアからの予告もなく、シアの言葉すら途中で途切れ、気づけばこの場所にいた。
俺の足元には海はない。だが歩けば、軋む音がする。
古びた甲板の上。ここは船の上だ──いや、正確には、“死んだ船”の上だ。
(これは、試練じゃない。侵食……)
未来を視る力を持つが故に、空気の“歪み”がわかる。
この世界そのものが、「第六柱」の影に浸食されている。
そして──その中央。
「……お前が、“死を運ぶ船幽霊”か」
そこに、いた。
風のない海で、濡れた髪を揺らす女。
目は空ろで、けれど確かな怨念を湛えている。
その唇が、微かに動いた。
「──なぜ、生きているの?」
「……」
「なぜ、息をしているの?」
「……!」
次の瞬間、黒い水柱が甲板を貫いた。
その中から無数の“手”が伸びる。
冷たい死の手だ。失った者たちの、海に沈んだ者たちの、怨嗟そのもの。
「これは、“過去を視る力”に対する、世界の怒りだ」
不意に声が届いた。
振り向けば、シアがいた。幻のように。
「“船幽霊”は“選ばれなかった未来”の亡霊。
あなたが選び損ねた命たちが、ここであなたを裁く──」
「なら、俺はそれを正面から受ける!」
右手は動かない。だが、未来の“断片”は視える。
助けられなかった少女。滅びた村。崩れた仲間。
──そのすべてが、この海に沈んでいるのだとしたら。
「来いよ、亡者ども……!
俺は、ここで“俺の選択”が間違ってなかったこと、証明してみせる!」
ナユタが叫ぶ。
その胸には、熱い“赫き光”が灯っていた。
過去ではなく、未来へ向ける意志。
そして、“亡者の海”は、その咆哮に、初めて僅かに揺らいだ。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
今回はナユタが初めて「柱」の本質に触れ、その恐ろしさと意味を自覚する回となりました。
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