第二話「柱の影、代償の傷痕」
ナユタが新たな地に踏み込んだ先で出会うのは、彼と同じように“柱”と関わり、傷を負った者たち──
今回は“柱候補者”たちの存在をにおわせつつ、代償がもたらす“後遺症”を描いていきます。
──痛い。
目が覚めた瞬間、全身に鈍い痛みが走った。
喉が焼けつくように乾いている。目蓋を開くと、見慣れぬ天蓋の下だった。
(ここは……どこだ?)
焼けた聖塔はない。赤い空も。
代わりに、風に揺れる布の音と、鳥のさえずり。
目の前には、陽の光に包まれた石造りの天井が広がっていた。
「起きたか、断片視の少年」
その声に、俺は跳ね起きた。
振り返ると、そこには──目に包帯を巻いた青年がいた。片腕がなかった。
「……あんた、誰だ」
「俺はイグナーツ。元・柱候補者だ」
「柱候補者……?」
「ルザリアから何も聞かされてないのか。まぁ、あいつらしいな」
イグナーツは肩をすくめ、椅子に腰を下ろす。
その仕草にどこか疲労が滲んでいた。
「この場所は“始原の地”。十三の柱が眠る前の時代、因果の狭間に存在する歪な楽園……らしい」
彼の語りに、俺は黙って耳を傾ける。
まだ頭が混乱している。けれど、一つだけ分かる。
──俺はもう、元の世界にはいない。
「お前、断片視なんだろ? 見たんだろ? 誰かの未来を」
「……ああ。でも、助けられなかった」
拳を握る。動かない右手が、また焼けるように疼いた。
その反応を見て、イグナーツは深く頷いた。
「代償が痛むのは、“選択に覚悟が足りなかった証”らしいぜ」
「覚悟……?」
「柱に近づくってのは、そういうことだ。
一度選んだ未来は覆せない。だが、お前には選び続ける力がある。それが“赫き未来”へ通じる唯一の道だ」
俺はその言葉を胸に刻む。
選ぶ。それが俺の宿命だというのなら。
その時だった。扉が開き、白銀の光が差し込んだ。
現れたのは、ルザリア──ではなかった。
「目覚めたのね、“未来喰らい”」
透き通るような声と共に、長い黒髪を揺らして歩いてきたのは、少女だった。
瞳は翡翠。微笑んでいるが、その奥には深い絶望が宿っているように見えた。
「……お前は?」
「わたしの名は、シア。第六柱“亡者の海”と繋がる者よ」
その瞬間、部屋の空気が一変した。
床が軋み、水のにおいが鼻を刺す。
彼女の背後に、うねる黒潮の幻影が揺れていた。
「ようこそ、“柱の選定”へ。
これよりあなたは、“十三柱にまつわる試練”を超えなければならないわ」
「試練……?」
「ええ。ひとつでも耐え切れなければ、あなたの存在は“代償”として、この因果に回収される」
俺は無意識に右腕を握りしめる。もう失うものはない。
でも、それでも前に進まなければ──
(もう誰も、俺の選択で死なせない)
「……受けてやるよ、その試練」
シアは静かに微笑んだ。
その笑みは、どこか哀しく、どこか嬉しそうで──
──その先に待つ未来が、俺に何を求めるかを、まだ俺は知らなかった。
ご覧いただきありがとうございました。
この第二話で“柱候補”たちの存在が少しずつ明らかになってきます。
次回はいよいよ最初の“試練”──「亡者の海」との接触が始まります。




