第一話「始まりは硝煙の中に」
この物語は、「未来を見る力」を持つ少年が、“選び直すことのできない世界”の中で、仲間を、世界を、そして自分自身を救うために戦うダークファンタジーです。
一話目は少し重たい始まりですが、どうかお付き合いくださいませ。
──空が赤かった。
けれど、それは夕焼けではなかった。
「……遅かった、か」
少年は呟く。名はナユタ・クロイツ。
煤けたマントの裾が焼け焦げ、頬には火の粉が落ちた跡が残っている。
彼の視線の先では、かつて聖域と呼ばれた大塔が、ゆっくりと崩れ落ちていた。
焦げた石畳に膝をつき、彼は拳を握る。
選んだはずだった。未来を。
助けるはずだった。彼女を。
「……どうして、視えなかったんだ……」
ナユタには“未来の欠片”を見る力がある。
一度きりしか使えない──未来のどれか一つだけを“視る”ことができる能力。
その名は、《断片視》。
代償として、未来に干渉すれば必ず“何か”を失う。
今回は右腕だった。二度と剣を振るえないと知っていて、彼はその未来を選んだ。
──けれど。
「ッ、嘘だろ……!」
崩れた瓦礫の隙間から、白い指が覗いていた。
それは彼が救いたかった少女の──リュミエルのものだった。
どうして。
なぜ、助からなかった。
代償は払った。未来は視た。
それでも……何も変わらなかったのか?
「選んでも、意味がなかったってことかよ……ッ!」
その時だった。
「ならば、次を選べ。ナユタ・クロイツ」
空気が裂け、眩い光が走る。
その中央から現れたのは、“人ならざる者”。
光を纏い、仮面の奥に微笑をたたえる少女──いや、少女の姿をした“柱候補”。
「……お前は?」
「私はルザリア。断片の外から来た者」
ナユタは警戒しながらも立ち上がる。
彼女は続けた。
「お前の『選び』は未熟だ。だが、お前は可能性を持つ。“赫き未来”に至る資格をな」
ルザリアは手を差し出す。
その掌に、ナユタは“熱”を感じた。焼けた空とは違う、深く、静かな、未来の炎。
「……俺は、もう何も選べねぇよ。選んだ結果がこれなんだ」
「それでも、選べる。
――未来を変えたいなら、“すべてを棄てる覚悟”を見せてみろ」
その瞬間、世界がひび割れた。
時間がねじれ、空間が反転し、ナユタの足元が崩れ落ちる。
彼の視界に広がったのは──かつて見たことのない、荘厳な神殿群と、13の玉座だった。
まだ、誰も座っていない。
けれど、そのすべては、やがて災厄と呼ばれる存在へと変貌していく。
そして、ナユタは気づく。
自分の“選び”が、この世界の命運を左右することになるのだと。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
一話目から重たい雰囲気になってしまいましたが、この物語は「未来を見る代わりに、何かを失う」少年の戦いと成長、そして「柱」と呼ばれる存在たちとの対話と衝突を描いていきます。
次回は、「第二話 柱の影、代償の傷痕」。
舞台は過去と未来が交差する“始原の地”へ──。
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それでは、次回もどうぞよろしくお願いいたします!