第十五話『終幕の鐘が鳴るとき』
最終幕。
悲劇を笑いで塗りつぶした「血濡れの道化」と、未来を選び続けるナユタ。
赦せなかった誰かと、赦す覚悟を持った少年の対話が、終わりを告げる。
剣と剣が、交わらなかった。
ナユタは剣を振らなかった。
リコメディアは笑っていた。
けれど、その笑いには“演出”がなかった。
ただ、泣きながら、笑っていた。
「……どうして、振らないのです?」
「もう、あんたは“敵”じゃない。あんた自身が、自分の舞台を終わらせたかったんだろ」
ナユタはゆっくりと、歩み寄った。
「誰にも赦されなかったのは、あんたが悪いんじゃない。
戦争を止めようとしたあんたは、本当は“英雄”だったんだ」
リコメディアの肩が震えた。
「私の滑稽さが、誰の心も救えなかった……私は、ただ……」
「だったら、今度は“あんたを笑わせてくれる誰か”を、未来で待てばいい」
ナユタの手が、リコメディアの肩に触れた瞬間。
赫光が、ゆっくりと彼を包み込む。
怒りではない。赦しでもない。
共感と、受容だった。
──そのとき、リコメディアの仮面が、自然に砕けた。
「……ありがとう。お前の舞台は、見事だったよ」
そう呟いたその男は、もう道化ではなかった。
ただ、ひとりの人間だった。
鐘の音が、静かに鳴った。
ゴォン……
その音が響いた瞬間、狂気に歪んだ劇場が崩れ、
都市に“普通の時間”が戻ってくる。
街の人々が、正気を取り戻し始める。
ミオルが目を覚ました。
「……ナユタ?」
その声に、ナユタははっとする。
彼女は──
少しずつ、記憶を取り戻している。
「……どうしてだ? 代償は……」
リヒトが呟く。
「選び直したんだ。俺は、“誰かを壊してまで救わない未来”を──
そして、“壊したとしても、それを赦して生きる未来”を」
赫光が変質していた。
かつてよりも柔らかく、穏やかに、白く淡い光を帯びて。
それは、怒りや悲しみではなく、
選択の果てにある祈りのような赫光だった。
「未来は変えられない。でも、未来を選び続けることは──できるから」
“血濡れの道化”編、ここに終幕。
鐘の音は、静かに“次の舞台”を告げていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
これにて「血濡れの道化」編、完結です。
ナユタが初めて“怒りで壊さず、赦して救う”ことを選び、赫光が変化する重要なエピソードでした。
どうか引き続きご期待ください!
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