第十三話『赫光狂乱、舞台は紅く染まりて』
怒りは光を濁らせる。
ナユタは、仲間を救うために“未来”を強引に改変し、《赫光》を暴走させる。
だがその代償は、彼自身の“存在”に及ぶものであった──
──ミオルが沈む。
舞台の床が裂け、彼女の身体がゆっくりと“悲劇の底”へ飲まれていく。
「やめろっ……やめろおおおおお!!」
ナユタが吼えた。
その声に応じて、《赫光》が猛る。
いつもよりも熱く、いつもよりも深く、紅い光が彼の背中から噴き出す。
《──未来を視ろ。選べ。代償を払え──》
「……いいだろう。代償なら、くれてやるッ!」
彼は視た。
“彼女を救える未来”を、強引に掴み取るようにして。
だけどそれは、決して「無償」ではなかった。
次の瞬間、ミオルの身体が浮かび上がる。
“沈んだ未来”は改変され、ナユタの赫光が、彼女の“笑顔の仮面”を焼き切った。
「ナユタ……?」
ミオルが、震えながら、ナユタの方を見た。
だが──
「……あなたは、誰?」
──ナユタは、その瞬間、理解した。
彼は「ミオルの未来」を救った代償として──
**“彼女の中の、自分という記憶”**を、喪った。
笑顔で泣いていた彼女は、今、悲しそうに笑っていた。
「助けてくれた人……ありがとうございます。でも、あなたに何を返せばいいのか……私、何も覚えていなくて……」
ナユタの赫光が、そこで音もなく消える。
「……それでいい。生きてさえいてくれれば、それで……」
だが、後ろから声が飛んできた。
「それでいいわけねえだろ、ナユタ!」
振り返れば、リヒトがいた。
彼の目は怒りに満ちていた。
「それが“代償”だと納得してるのか!?
記憶を失わせてまで、自分を守った気でいるのか……!?」
ナユタは、答えられなかった。
答えた瞬間、涙が溢れてしまいそうだった。
──そして、道化が再び現れる。
「いやぁ、実に美しい。
“助けた相手に忘れられる”という皮肉! 最高の悲喜劇ですねえ、観客の皆様!」
彼が拍手すると、幻の観客たちが一斉に嗤った。
「ナユタ・クロイツさん。あなたにはもう、十分“配役”の資格があります。
次の幕では、あなたにも台詞がございますからね?」
ナユタは剣を手に取った。
その手は震えていた。怒りか、後悔か、それとも──
(俺は、どこまで……何を棄てて、“選べば”いいんだ)
“赫光”の揺らぎが、彼の内側で赤黒く脈動していた。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
今回は、「助ける」ことの代償をナユタが真正面から受け止めるエピソードでした。
“救った未来”は確かに存在した。しかしそこに自分の居場所はない──そんな“喪失の正義”が今、彼を揺さぶっています。
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