第十二話『喜劇の始まりは、絶望の音』
“血濡れの道化”編、本格開幕。
ナユタの仲間・ミオルが狂気に巻き込まれる中、道化劇の幕が上がる。
それは、“悲劇を笑いに変える”という、狂った舞台。
広場に咲き乱れるのは、血と拍手だった。
観客たちは笑い、踊り、泣きながら、
“悲劇の再演”という名の狂気に酔いしれている。
「はーいはーい、皆さんお揃いですねぇ☆ 本日の演目はこちら!」
ぱんっ
手を打つ音とともに、石造りの舞台に火が灯る。
「『ミオルちゃん、惨劇に咲く』──どうぞお楽しみくださいッ!」
中央に立たされるのは、笑顔のまま涙を流す少女。
ナユタの仲間──ミオル・グレイだった。
「やめろ……彼女を、返せ……!」
ナユタが駆け寄ろうとした瞬間、何かが“割れた”。
視界が、未来が、感情すらも、“演出”に塗りつぶされる。
──この空間では、未来視が通用しない。
ナユタの能力、《断片視》が封じられる。
彼の「選択肢」は、存在そのものを否定されていた。
「怖いですか? 予測できない舞台。
でもそれがエンタメでしょう? “次の一手”がわからないからこそ、観客は息を呑むんです♡」
血濡れの道化──リコメディアは、観客に深々とお辞儀する。
「見てくださいよ、この顔を! 涙も、叫びも、全部、笑顔の仮面になる!
人は死ぬとき、笑えるんですよ! ……ねぇ、ミオルちゃん?」
ミオルがこちらを向いた。
その目は怯えていた。
けれど──口元だけが、無理やり吊り上がったまま。
「たす……け……」
ナユタの中で何かが燃え上がる。
赫光が、いつもよりも深く、赤く、濁る。
怒りが、限界を超えて噴き出した。
「お前が笑わせてるんじゃない……!
お前は、俺の仲間を“壊してる”だけだ!!」
彼の叫びに、リコメディアの仮面が微かに揺れた。
「……おや。怒り、ですか。
いいですねぇ、“英雄が怒る”──これぞ、王道ッ! ですが!」
道化が、バトンを振る。
ミオルの足元が割れ、赤い劇場の底へ沈んでいく。
「怒りは滑稽です。正義は哀れです。そして──
“最終幕まで、笑顔でいてくださいね?”」
ナユタが駆け出す。
赫光が暴れる。怒りが剣を引く。
だが、彼はまだ知らない。
この“舞台”には、“怒りで壊せない演出”があることを──。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
“血濡れの道化”編、ついに舞台が本格開演しました。
ナユタの感情が限界を迎える中、彼の赫光が暴走の兆しを見せ始めます。
次回は、怒りに支配されかけたナユタが選んだ“改変”による、重すぎる代償が描かれます。
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