第十話『死を告げる鐘、希望の残響』
ナユタは第三の試練──第九柱『絶望の鐘楼』へと挑みます。
それは「未来の声を失った世界」。
鐘の音が響くたび、人々は存在を忘れられ、“未来から消えていく”。
風が止まった。
空が灰に覆われ、太陽は、まるで最初からそこになかったかのように消えていた。
ナユタは、静まり返った街に足を踏み入れた。
誰もいない。誰かがいた形跡すら、ない。
「これが、“鐘楼の街”……“残響のない未来”ってわけか」
リヒトの言葉に、ナユタは頷く。
その中心──町の最奥には、一本の黒い塔。
風もないのに、その上に吊るされた巨大な鐘が、ゆらりと揺れていた。
ゴォオオン……。
鳴った瞬間、空間が軋んだ。
「やっぱり……“鐘”が鳴るたび、この世界の“何か”が消えてる」
ナユタの隣にいたはずの少年が──いない。
声も、姿も、記憶も、消えていた。
(これは、“選ばれることさえ拒まれた者”たちの絶望……)
それが──第九柱「絶望の鐘楼」の試練だった。
⸻
塔の前、ナユタは“鐘の番人”に出会う。
顔のない修道士。
手には名簿と呼ばれる“未来の名が記された紙片”。
彼の役目は「世界に必要ない者」を、音と共に“消す”こと。
「名がない者は、未来に存在しない。
あなたも“選ばれなかった”過去を持つのなら──その未来を剥奪されるべきです」
ナユタは剣を構える。
「俺は、何度だって“選び直す”。そのたびに誰かを失ってきた。でも……
失ったからこそ、まだ生きてる“誰か”を消させはしない!」
赫光が咆哮する。
鳴り響く鐘の音をかき消すように、赫き剣が夜を裂いた。
⸻
戦いの果て。
塔の鐘は折れ、音は止んだ。
消えかけていた人々の“影”が、再びこの世界に落ちてきた。
だが──その光景に、ナユタは思わず膝をついた。
「……全部、は……戻ってこないのか」
“未来から消された者”の一部は、もう戻らなかった。
彼らの存在は、完全に“世界から抜かれた”。
リヒトが傍に立つ。
「お前は、“希望”を選んだ。けれど、全てを救うことは、できない」
「……わかってる。それでも、“残響”は確かにあった。
俺の選んだ未来は、誰かの存在を“ここにいた”と刻めた。
それだけで、意味はあったって思いたい」
そしてナユタは顔を上げる。
「次は……“血濡れの道化”だ」
それは、“笑いながら人を壊す”最悪の柱。
ナユタがこれまでで最も“憎しみ”に近づく試練。
第十話まで読んでくださって、本当にありがとうございます!
「絶望の鐘楼」編では、存在そのものの否定=“未来からの削除”という非常に抽象的かつ重いテーマに挑みました。
ナユタが選んだのは、“記憶に残す”という希望。けれど、完全な勝利ではありません。
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