第八話『腐敗の花嫁と死の庭園』
“十三柱”──その一柱、“屍花の乙女”が目覚める。
彼女の庭は死に満ち、愛を語り、終焉を花開かせる。
ナユタは“愛するとは何か”を問われることになる。
森を抜けた先、空間そのものが腐敗していた。
まるで世界の色彩が死に染まったような場所。
そこは、“屍花の乙女”が咲く場所──《死の庭園》。
ナユタとリヒトは、胸に息苦しさを覚えながら、花々に囲まれた古びた祭壇へと足を進めていた。
「この空間……ただの魔力じゃない。感情が、染みついてる……」
リヒトがそう呟いた瞬間、花弁のような霧が舞い、その中心に一人の女性が現れた。
透き通るような肌、血のように紅い唇。
そして、全身を包む白いウェディングドレスには、朽ちた蔓と骨の指輪が絡んでいた。
「ようこそ、私の庭へ──赫光の継承者。あなたも“花婿”を求めに来たのかしら?」
それが、“腐敗の花嫁”──屍花の乙女。
彼女の声は甘く、死の匂いが混じっていた。
「……違う。俺は、あんたの試練を終わらせに来た」
「ふふ、強がり。愛を知らない者に、私を終わらせることなんてできるかしら?」
乙女が手を振ると、死の庭に咲き誇る花が咲き乱れる。
だがその花は、すべて“人の記憶”でできていた。
──かつて愛された人。
──決して届かなかった想い。
──見捨てられた誓い。
「これは……過去の、恋人たち……?」
「ええ、すべて“選ばれなかった私”が生み出した愛の亡霊。
あなたが誰かを愛したことがあるなら──この庭は、あなたの命を咲かせてしまうわ」
花嫁の瞳に、静かな怒りが宿る。
「私は“愛されること”を望んだ。でも、誰にも選ばれなかった。
だから、私はこの庭で永遠に待つの。私だけを見てくれる、“運命の人”を」
ナユタは静かに剣を構える。
「それは愛じゃない。選ばれなかった過去に縛られて、誰かを巻き込むのは、ただの執着だ」
「……ならば証明して。あなたの“未来”には、誰かを愛す覚悟があるのかを!」
その瞬間、死の庭園が咲き乱れる。
蔓が蠢き、骨の花が咲き、記憶が具現化してナユタの心をえぐる。
──あの時、誰かを助けるために、誰かを見捨てた記憶。
──自分を想ってくれた者の存在に、気づけなかった未来。
ナユタは一歩も引かずに叫ぶ。
「俺はまだ、本当の“愛”を知らない。だけど、それでも──誰かを諦めたくないんだ!!」
赫光が咆哮を上げる。
そして、死の花園に、“赫き未来”が一輪、咲き誇る。
第八話、お読みいただきありがとうございました!
“屍花の乙女”編に突入しました。
今回は「愛されなかった者の復讐」そして「愛を知らない者の挑戦」がテーマです。
感想・評価・ブクマ等、よろしくお願いいたします!




