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第十三話 都へ至る道

朝靄がうっすらと残る中、一行は黙々と歩を進める。


飛賀の里を出てから、三日が経っていた。変わり映えのない山道を登ったり、降りたりで、今どの辺りにいるのかを正確に把握しているのは、先頭を行くコモリだけだ。


飛賀の里を出る際、茂吉はひと足先に別行動となった。嵩原たけはら家、遠山家の生き残りを探るため、単身、別の道を進んでいるという。出発前、宵乃には「コモリを頼む」とだけ言い残していた。


それからこの三日間、彼女──コモリが道案内を引き受け、都への道を進んでいる。


「……ふぅ……もう少し、緩やかにはならないものか……」


日野介が額の汗を拭いながら、小さく吐息を漏らす。この辺りを庭のようにして生きてきた忍びのコモリはともかく……。宵乃も、老人の姿をしたカナギまでもが、息を切らさず、滑らかな歩みで進んでいる。日野介は愚痴の一つでも言いたくなる。


(俺だって毎日鍛錬しているのにな……)


「日野介、早く!ここからの景色、すごく綺麗!」


先を進んでいた宵乃が、石の上から手を振った。


(どうせ山と木しか──)


と内心ぼやきながらも、彼女の隣に立つと、日野介は思わず言葉を失った。


眼下に広がるのは、山々のあいだを流れる清流と、それが注ぎ込む青く澄んだ湖。そしてその上には、深い谷をつなぐ一本の長い吊り橋が風に揺れていた。


「ここで、ひと息入れましょう」


コモリが言った。


石の上に腰を下ろして、忍びの携行食である兵糧丸と猪の干し肉を食らう。最初は美味しいと感じていたが、三日も続くと飽きがくる。


カナギは相変わらず、今日も食事を取る様子がない。何も食べなくても動けるのか、妖のものは本当に得体が知れない──日野介はそんなことを思った。





ひと足さきに食べ終わった宵乃は、コモリに話しかけた。


「ねえ、コモリ。聞いていなかったんだけど……あなた、年はいくつ?」


「十七です」


「……なに? 俺より年下……?」


傍で聞いていた日野介は、宵乃よりも先に思わず聞き返してしまった。


「なにか、ご不満でも?」


コモリは口を尖らせる。


「いや、その……落ち着きがあって……」


「つまり、老けて見えると?」


コモリの声がすうっと冷えた。


「ち、違う。そういうんじゃなくて……その、なんていうか──」


日野介が焦ったように手を振った。


「もう遅いです」


コモリは、腰の小刀を抜き取る。


「この刃には毒が塗ってあります。ほんのかすり傷でも、身体中の穴という穴から血が──」


「待て、冗談だって言ってくれ!」


日野介が一歩、思わず身を引く。


「……冗談です」


「それが冗談に聞こえないんだってば……」


そのやり取りに、宵乃はくすりと笑った。


(……なんだか、日に日に仲良くなっている)



「そういえば──日野介、あのとき受け取ってた木の箱、中身は何だったの?」


急に思い出したのか、宵乃は飛賀の里で日野介が受け取っていた箱の中身をたずねた。


「ああ、これか」


日野介は腰の刀に手を添え、つばを少し傾けて見せた。


「刀の鍔さ。猿の模様が彫られてるんだ」


「それ、猿翁様が使っていたものです」


コモリが説明を加える。


「飛賀の里に代々伝わってきた守りの鍔。妖気や呪いを弾くと伝わっています」


「……俺には、もったいないな」


「ええ。私もそう思います」


「おい」


コモリは口元だけでくすりと笑った。





「ねえ」


──宵乃が不意に吊り橋のほうを指差した。


「……あそこ、何かいるね」


「あぁ、何も見えないけど。嫌な予感はするな」


日野介も先ほどから気になっていたことを言う。


「風の流れが逆巻いている」


コモリもつぶやいた。


「他に道はないのか?」


日野介がコモリの顔を見た。


「……(おぼろ)ノ橋。都へ続く唯一の道です。谷へ降りるのも危険。あの急流を渡る手段もありません」


「……千代田の軍勢はすでに都に向かっているのよね」


と宵乃がコモリに聞く。


「ええ。おそらく、猿たちの伝言では、千代田が帝と会う準備を進めていると」


「……都の内部に、すでに“黒衣(こくえ)”と通じている者がいるということか」


日野介が腕を組む。


「その可能性が高いです。私たちは謁見の前に、動かねばなりません」



短い沈黙のあと、宵乃が一歩、橋のほうへと近づいた。


「じゃあ、渡るしかないね」


その声は、少しも迷っていなかった。


「何が待ち受けていても──行くしかない。遅かれ早かれ戦うのだから」


日野介とコモリも無言で頷いた。


老人は静かに宵乃の背後に立っていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


今回はちょっとした休息回です。

だんだんと物語は佳境へ向かっています。次回も乞うご期待!


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どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします!

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