火の試練 (Dai Isshō: Hi no Shiren)
序章:業火の洗礼
死とは、突然訪れるものなのか、それとも運命づけられた結末なのか。
最後に聞いたのは、トラックのクラクション。
最後に感じたのは、激痛と衝撃。
そして――無。
しかし、終わりではなかった。
目を覚ました時、俺は灼熱の地獄に立っていた。
溶岩が流れ、空には黒煙と灰が渦巻く世界。
そして、頭上に浮かぶ謎のメッセージ――
「ようこそ、新たなる旅人よ。エリディオンの世界へ。」
これは転生なのか?それとも悪夢の続きか?
生き延びるためには、考える時間すら許されない。
ここは地獄。
ここでは、生きることすら試練なのだから。
最後に覚えているのは、トラックのけたたましいクラクションの音だった。
音楽を爆音で流しながらイヤホンをつけたまま、何も知らずに道路を渡っていた。
猛スピードで迫る死の機械に気づいた時には――遅かった。
激痛。衝撃。そして……無。
――今までは。
息を大きく吸い込みながら目を覚ます。
身体が痙攣し、まるでこの世界そのものを拒絶しているかのようだ。
肌が焼けるように痛む――炎ではない。空気そのものが毒のように重く、まとわりついてくる。
肺が苦しい。咳き込みながら、なんとか立ち上がろうとする。
――そして、それを見た。
目の前に広がるのは、燃え盛る溶岩の海。
地平線の果てまで続く赤熱の川が、黒煙と灰に満ちた空を照らしている。
足元は辛うじて固まっているが、内部には脈打つように熔けた熱が走り、今にも崩れそうだった。
「……なんだ、ここは?」
かすれた声でつぶやく。
その瞬間、視界に青白く光る透明なボックスが浮かび上がった。
《ようこそ、新たなる旅人よ。エリディオンの世界へ。》
《ステータスを初期化中……》
別のウィンドウが開く。
――――――――――
名前:不明
種族:人間
クラス:生存者
レベル:1
HP:10/10
MP:0/0
スキル:なし
――――――――――
まばたきをする。これは……ゲームのインターフェース?
俺、異世界転生したのか?
けど、なぜここなんだ?
騎士やドラゴンがいるファンタジー世界じゃない。ここは――地獄だ。
地面が轟音とともに揺れ、心臓が跳ね上がる。
遠くの火山が噴火し、無数の溶岩の塊を空へと投げ上げる。
燃え盛る岩が降り注ぎ、一部が危険なほど近くに落ちてきた。
裸足のまま飛び退き、かろうじて溶岩の飛沫を避ける。
ヤバい。動かなきゃ。
ここでじっとしていたら死ぬ。
避難場所、食料、水――何かを探さなければ。
でも、周囲は火と岩しかない。
ステータスをもう一度確認するが、役に立ちそうな情報は何もない。
スキルも、バフもなし。ただの「生存者」って、一体どういう意味だ?
新たな通知が表示される。
《新クエスト:地獄での第一歩》
目標:24時間生き延びろ。
報酬:???
――24時間?こんな場所で?!
熱気が身体を包み込み、呼吸するだけで喉が焼けるようだ。
汗が吹き出すが、すぐに蒸発してしまう。
このままでは熱中症で意識を失う。
とにかく動かないと。
慎重に黒く焼けた岩の上を進む。
数歩ごとに、近くで溶岩が弾ける音がして飛び跳ねそうになる。
ここは生きているかのように脈動する燃え盛る地獄――。
――その時、視界の端で何かが動いた。
炎の間を抜ける、巨大な影。
人間ではない。
足が止まる。
本能が逃げろと叫ぶが、目をそらせない。
それは姿を現した。
黒曜石のような漆黒の巨体。
裂け目から光る紅蓮の炎――まるで内部に煮えたぎる溶岩を閉じ込めたかのような存在。
灼熱の太陽のように燃え上がる双眸が、俺を捉える。
《溶岩の守護者》
レベル:???
息が止まる。
俺のレベルは1。勝てるわけがない。
溶岩の守護者が低く唸る。
大地が震える。
俺にできることは――ただ一つ。
走るしかない。
あとがき
ここまで読んでくれたあなたへ――おめでとう。第一章を生き延びたな!
この物語は、ふとした疑問から生まれた。
「もし異世界転生した先が、剣と魔法の王国ではなく、地獄だったら?」
チート能力もなければ、親切な案内人もいない。
あるのは、生存不可能な環境と、絶望だけ――。
主人公の彼女は、「エリディオン」という世界の最深部に投げ込まれた。
そこにあるのは騎士も王国もなく、燃え盛る炎と黒き岩、そして灼熱から生まれし怪物たちだけ。
果たして彼女は生き延びることができるのか?
適応することができるのか?
そして何より――なぜ彼女はここに送られたのか?
これはまだ、旅の始まりに過ぎない。
彼女を待ち受ける試練は、これまで以上に過酷なものとなるだろう。
だが、だからこそ「生きる」という意味がある。
この旅に付き合ってくれた読者の皆さん、ありがとう。
この先の物語も、ぜひ見届けてほしい。
それではまた次回。
炎に呑まれぬよう、どうか強くあれ――。