表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり婚~光を失った騎士団長は、令嬢へ愛を捧げる  作者: 魚谷


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/35

マリアンヌとメイド

 マリアは伯爵の屋敷へ商談に向かう。

 相手は、侯爵夫人がマリアを評価しているという話を聞きつけ、指名してくれたらしい。

 伯爵が所望したのは婚約者へのドレス。すでにデザイナーや工房に関しては決まっているようだが、布や装飾の材料などが決まっておらず、悩んでいるらしい。

 いいものを揃えたいが、この手のものは上を見ればきりがなく、値段はあってないようなもので青天井。

 何の知識もない状態で安易に選べば、それこそ法外な値段のものを売りつけられるかもしれない。そこで同じ女性であり、侯爵夫人にも認められたマリアに白羽の矢が立ったという訳だ。


(本当に侯爵夫人様の声望はすごいのね)


 マリアは期待に応えるべく、伯爵から予算を聞き、各地から取り寄せた材料を、伯爵へ詳細な説明と共に提示した。


「……シルクでは難しいか」

「王国は他国に比べると高温多湿の国柄ですので、シルクですと吸湿性などに劣るので、シフォン生地がよろしいかと思います。通気性に優れておりますし、薄手なので着心地もよろしいかと」


 何日にもわたった吟味の末に、どうにか、依頼人の満足するような材料を選ぶことができた。


「本当に助かったよ。さすがは侯爵夫人が認めただけのことはある。これなら、最高のものが作れそうだ」

「お気に召して頂いて良かったです。伯爵様、どうか、お幸せに」

「ありがとう」


 マリアは辞去すると、伯爵家の馬車で送られる。

 日はまだ高い。

 何気なく通りを見ると、親子連れの姿を見かける。自然と、目は子どもへ。

 子どもを見ると、どうしてもマリアンヌのことが思い浮かぶ。

 今日はマリアが屋敷に行くけないからきっとぐずり、メイドたちを困らせてしまっているかもしれない。


「すみません。行き先を変更してもらえますか?」


 そこまで気にするべきかどうか迷ったけれど、まだ日が高いのだから少し顔を出してみるくらいはいいだろうと、公爵邸を訪ねてみることにした。

 公爵邸で馬車を降り、ノッカーを叩く。

 開いた扉から少しお疲れ気味のメイドが顔を出す。


「マリア様! どうされたんですか? お仕事があったのでは……?」


 まるで救い主にでも会えたかのように、メイドは輝くような笑顔を浮かべた。


「すみません、突然。仕事を早めに終えられたので、マリアンヌちゃんはどうかなと様子を見に寄ったのですが……」

「是非、お会いして下さい。マリアンヌ様はここ数日、マリアさんの名前を呼んでばかりで……」


 メイドと一緒にマリアは、マリアンヌの部屋へ向かう。

 と、廊下にもメイドと、マリアンヌのやりとりが聞こえてくる。


「マリアンヌ様、ちゃんとお昼寝をしないと」

「やぁ!」

「レオン様に怒られてしまいますよぉ」

「パパもきらい!」


 どうやら想像したよりもずっと大変なことになってるみたいだった。

 案内してくれたメイドが、困った顔をする。


「……このやりとりが続いて、結局はマリアンヌ様は疲れて眠ってしまわれるのですが。私どもも色々と工夫をしているのですが、マリア様のようにはうまくいかなくて。公爵様も、ここのところお元気がなくて」

「こ、公爵様まで? やっぱりマリアンヌちゃんが心配で」

「かもしれません」


 部屋を覗く。


「マリアンヌ様、そろそろ眠ったほうがいいと、くまも言っておりますよぉ」


 六十歳近い執事までくまのぬいぐるみを持ち出す。


「まいあぬのくまちゃんに、さわないでー!」

「こ、これは……申し訳ございません!」

「もぉー、みんな、きあいぃー!」

「マリアンヌちゃん」


 奮闘している使用人の方々の後ろから、こそっと声をかける。

 すると使用人の人たちが全員、涙目で振り返った。


「マリア様!」

「お仕事ではなかったのですか!?」

「なんにせよ、来て頂けて良かった。マリアンヌ様のこと、お願いいたします!」

「お、お任せ下さい」


 熱烈に頭を下げられたマリアはしゃがむと、マリアンヌに向けて腕を伸ばす。


「マリア!」


 マリアンヌが、ぎゅっと抱きついてくる。


「お昼寝、してないんですか。だめですよ」

「マリアがいないからぁっ」

「ごめんなさい」


 びっくりするくらい強い力で抱きついてくるマリアンヌをよしよし、と背中を撫でた。

 ベッドに腰かけ、それを繰り返すと、やがてマリアンヌはあっさり眠った。

 それを見守っていた使用人たちは全員がそろって、ほっと安堵の息を吐き出す。


「さすがはマリア様です」

「紅茶をお持ちいたしますね」

「ありがとうございます」


 あまりに感謝されすぎて、かえってマリアは恐縮してしまう。


「公爵様もお帰りになられたらさぞ喜ばれると思います。マリア様がいらっしゃらないと、公爵様はあまり笑われないので」

「そんなことはさすがに」

「いいえ、ございます。レオン様はマリア様とご一緒にいられるととてもくつろがれているような気がしますもの。ねっ」

「はい。私もそう思いますっ」


 使用人たちはうんうんと頷く。


(それはさすがに私を買いかぶりすぎだとは思うけど)

作品の続きに興味・関心を持って頂けましたら、ブクマ、★をクリックして頂けますと非常に嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ