マリアの助け(レオン視点)
(こんなことをマリアに話すなんて)
これまで誰にも、あんなことを話したことがなかったというのに。
いきなりあんな話をされて、マリアも困惑したことだろう。
マリアには話しやすい雰囲気があるから、つい口が滑ったのだ。
(……だからこそ、あの気難しい侯爵夫人の心を射止められたのかもしれない)
気難しい彼女が太鼓判を押した人物は稀少だ。
それだけに、彼女所属する商会の認知度は都一と言って良かった。
商会の主人であるエイリークも優秀な人物だ。
そんなことを考えながら書類にペンを走らせた。
(くそ、軍事のことなど分からぬ素人ども……)
文人貴族たちの嫌がらせのせいで、常に騎士団の予算はかつかつだ。
特に、国境の紛争が終息してからはその傾向が著しい。
国王に直談判しても「今は平時なのだから我慢しろ。戦時には予算を潤沢に回したのだからな」と呑気な者。平時の訓練がしっかりできなければいざという時に役に立たぬ、張り子の虎になるだけだ。
「……糧秣をどうするか」
いつものように考えていたことが、ついぽろっと声に出た。
はっと目を上げた。つい集中しすぎて、ここにマリアがいたことを失念していた。
「糧秣が不足しているのですか?」
「すまない。つい集中すると考えが声に出てしまって」
「もしそうであるのなら、お手伝いできるかもしれません」
「商人の伝手、か? 頼りたいところだが、金が限られてるんだ。ここのところ糧秣は価格が上昇しているのに予算は変わらなくてな。商人を紹介してもらっても大した金額が出せない」
「どれほどの予算ですか?」
レオンは使える金額を提示する。
「分かりました」
「どうにかなるのか?」
「エイリーク様に相談してみます。おそらく、大丈夫かと。以前、販路の拡大をお手伝いした農家の方に話をしてみます。ただ、その金額ですと一定期間の独占的な仕入れなど条件がつくようになると思いますが」
「飼い葉が安定的に手に入るのならこちらとしては歓迎する。話を通してくれないか?」
「かしこまりました」
「すまないな。マリアンヌのことだけでも大変なのに、俺のことまで」
「商人は物だけでなく、人と人とを繋ぐのも大切な仕事です。騎士団の皆さんのお役に立てるのならば光栄なことです」
「いい言葉だな」
「エイリーク様の請け売りですが」
ふふ、と笑うマリアに、自然とレオンも笑顔になる。
「では私はそろそろ休ませて頂きます」
「色々とすまない」
「私どもにとっても、国を守る騎士団の方々と関係を築けるのは良い機会ですから」
マリアはにこりと微笑んで言った。
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