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うましか  作者: 真崎優
後日談
16/17

僕らは今日も、1


 雑貨屋で働いている彼女の休日は不定期で、暦通りに働く会社員の僕とは、生活サイクルが合わないことのほうが多い。


 でも最近はスタッフたちの都合で朝番に多く入っているらしく、仕事帰りに僕の部屋に来ることも増えた。一緒に夕飯を食べて、借りてきたDVDを観て、他愛のない雑談をして……。そのまま泊まっていくこともしばしば。


 そうして僕の部屋には彼女の服や歯ブラシや食器が、少しずつ増えていく。それを見る度にやにやして、幸せを噛み締める。そのせいか最近ちょっと太った。もう新婚の先輩に「幸せ太りですか?」と言ってからかうことはできない。



 今日も仕事帰りに大きな買い物袋を抱えてやって来た彼女と夕飯を食べて、今日はバレンタインだからとデザートに手作りなめらかプリンまで付いて、「最近ちょっと太ったよ」「気のせい気のせい、小林くん昔から細いよ」「笹井さんの手料理が美味いせいだと思うんだよね」「じゃあ次回は虫料理を作るね」「どうせ美味しく料理しちゃうんでしょ」「味付けなしで素材の味を活かすわ」なんて、他愛ない雑談をしたあと。


 時刻はもう二十二時を過ぎていて、そろそろ寝る準備をしなくてはならない。


「泊まっていってよ」


 時刻を確認していた彼女に声をかけると「そんなに頻繁に泊まっていいのかなぁ」と眉を下げる。


「いいのいいの。この間泊まったときに置いていった服もあるし、むしろ最初から泊まってもらうつもりだったよ」


 良いどころじゃなく、良いのだ。

 普段彼女は車でうちに来ていて、二十分ほどで行き来できるけれど、夜間や早朝に運転させるのを、いつも申し訳なく思っている。


 だけど今日彼女は電車でここまで来ているのだ。仙台にある雑貨屋の本部で会議に出席したらしく、その足でうちまで来たのだ。僕が車で送ればいいのだけれど、今日は「付き合い始めて一年」「バレンタインデー」ということで、食事のときにお酒を飲んでしまっている。僕としては最初から泊めるつもりだったのだ。


 だから彼女がどうしても自宅まで帰りたければ、地下鉄に乗って仙台駅まで行って、そこから在来線に乗り換えなくてはいけない。さらに駅から彼女の自宅マンションまで徒歩十分ほど。合計で一時間近くかかってしまう。


 こんな時間に彼女をそんな目に遭わせたくはないし、彼女さえ良ければ、どんどんうちに泊まってほしい。なんならそろそろ一緒に暮らしても良いのではないかとすら思っている。



 どうにか彼女を説き伏せ、風呂場に押し込んだ。

 戻って来た彼女はもちろんすっぴんで。普段から化粧は薄いけれど、完全なすっぴんを見ると、何度でも昔を思い出す。


 元々僕と彼女は高校の同級生で、あの頃見ていたのはすっぴんだった。当時は話すこともないただの同級生だったから、間近で正面から見たことはなかったけれど。話しかけたい僕は、いつも彼女の姿を目で追っていたから、それなりに記憶もある。


 だからこんなにも間近で、正面から彼女を見ることができる今は、あの頃の情けない記憶も相まって、無性に嬉しくなるのだ。そして何度でもあの頃の僕に言ってやりたくなる。彼女は可愛い、近くで見られなくて残念だったな、と。



 そんなすっぴんでほかほかした彼女は、思い出したように買い物袋をあさり、巾着袋を取り出した。その中に入っていたのはクリームやスプレーや布。これは今日買って来たものではなく、持参したものらしい。


「靴みがいてあげるよ」

 彼女が満面の笑みで言う。


「なにもこんな時間に、しかも風呂上がりにしなくてもいいのに」

「いいからいいから。バレンタインだしね」

「バレンタインと靴みがきって関係ある?」

「いいからいいから。付き合って一年だしね」

「付き合って一年と靴みがきって関係ある?」

「いいからいいから」


 今度は僕が説き伏せられ、風呂場に押し込まれた。


 まあ、正直靴をみがいてもらえるのは助かる。営業職であちこち歩き回るし、最近は雪や雨も多くて靴が汚れていた。

 でもどうしてよりによって風呂上がりに……。手も汚れるし、身体も冷えてしまうじゃないか。



 不思議に思いながら風呂を出ると、彼女も玄関から戻って来て「戸締りもしてきたよー」と平和に笑うから。とりあえず今は些細な疑問より、冷えた彼女の身体を温めてあげることに専念しようと思った。




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