3 アリスという少女
目を覚ました時には、壮絶な光景が目の前に広がっていた。不思議な夢の中で神獣の王と話をして、それから神獣の王が導くまま歩いていった所までは覚えている。
けれど……
(どうしてこうなったのかしら……)
最初に目を覚ました時に見た紫髪の美形が私の手を握りながら大量の涙を流している。身体中の穴という穴から水が溢れたかのような有様に少し引いた。あまりにも強い力で握られているであろう手は青白くなっている。ちなみに感覚はもうない。
そんな青年を白衣を着た老人(彼も最初に見た)がこれもまた、先程のように必死な形相で止めに入っている。
(この既視感はなに?)
けれど先程と違うこともあった。私の手を握りしめている青年によく似た威厳のある男がその隣で青年と同じように泣いている可憐な美女の腰を支えている。そしてその美女の足付近にしがみついている幼い子供。その男の子もまた、わんわんと泣きわめいている。
(一体どういうこと?この人たちは一体誰?)
神獣の王と話をしたことが本当なら私は「アリス」という少女として生まれ変わったはず。先程から視界にある豪奢なシャンデリアやたくさんのメイドと執事、絢爛豪華な部屋を見る限り、どこかの貴族令嬢というのはわかった。けれど私はアスランとしての記憶はあれどアリスとしての記憶が全くないのだ。
(私が、「アリス」が記憶を失ったと分かったらこの人たちはどう思うだろう)
魔法使いの仕業だと怒り狂うのだろうか。いや、そもそもここはアリアード帝国やミンス王国があった世界なのだろうか。全く知りもしない世界に生まれ変わった可能性も捨てきれない。
「あ、の」
声が掠れる。しばらく話していないようだ。
「こ、ここはなんという国でしょうか」
「……!!アリス?大丈夫か?俺が分かるか?」
「え、えっと」
「!!!!忘れてしまったのかい!!!俺はアリスの兄だよ!!レオンハルト・ヴィンクルムだ!!」
頭に響く大きな声が私の脳を揺らす。
この青年は今なんと言っただろうか。
「ヴィンクルム」この姓を持つ者は限られている。
かつて一人の男が4の地域を統一し、国を作った。圧倒的な力で先住民たちをねじ伏せ、絶対的な王政を作り上げた歴史に残る王。自らの名を国名とし、栄華を誇ったその名は「ミンス・ヴィンクルム」
大聖女アスランを処刑したミンス王国の初代国王。
その名を引き継いだ者はすなわちミンス王国の王族ということ。最初に目覚めた時、白衣の老人はレオンハルト殿下と言っていた。世襲による君主制ならば目の前にいるこの青年、レオンハルトは王位継承者であり、この私「アリス」を妹といったのならば、私は……
(アリス・ヴィンクルム……ミンス王国の王女)
私を処刑した国の王女に生まれ変わるなんて……。