第16話 露出狂じゃないですぅ!! エレガですぅ!!
カツカツカツ……
石畳を歩く足音。
カチャ……
ギィィィィィ……
牢の鍵が開けられ、錆びついた鉄格子の扉が開く。
牢屋に侵入したその人物は、硬い寝台の上で、すやすやと眠りに落ちる、5歳児、セファイル王国の第1王子ハルス・レイアード・セファイルメトスの頭に手をかかげるが……
「ハルスじゃないッ!?」
ハルスに扮した人物は、パチっと目を開け、
「そうですぅ!! エレンですぅ!!」
ぐにゃりと変わる景色。
気づくと、そこは、牢屋ではなく、荘厳なる広い空間だった。
セファイル王国の『ザラナイル宮殿』の『王の間』よりも芸術性の高い美術品、贅を凝らした豪華な調度品がずらりと並んでいる。
明らかに、セファイル王国ではなかった。
地上のどこにもありはしない光景だった。
「クッ!! ドジっ娘メイドめッ!!」
「ドジっ娘メイドじゃないですぅ!!」
と、ミニスカメイド姿のエレンは、服を掴むと、バッと服を剥ぎ取った。
ミディアムの蒼い髪。きめ細やかな肌、清楚で柔和な気質、楚々と整った顔立ち。
身にまとう『世界で最も美しい碧で編んだ羽衣』は、唯一無二の神を飾るに相応しい至高の神器。
露出は多いが、その耐久値は破格で、付与されている『魔法吸収』は、どんな魔法を受けようと、容易く分解し呑み込んで、主を飾る宝石の一つへと変えてしまう、まさしく神代の神衣。
その人物は、顔を青ざめ、
「露出狂だ……」
声を震わせる。
「露出狂じゃないですぅ!! エレガですぅ!!」
そう。
ドジっ娘メイド、エレンは、世を忍ぶ仮の姿。
しかして、その正体は、裏番付け殿堂者ランキングNo.1、女神エレガ・プラネタだった。
「裏番長か……」
「裏番長じゃないですぅ!! 女神ですぅ!!」
「神種も芽吹いてないのに女神を自称するとは片腹痛し!!」
「わたしだって、好きでやってるんじゃないですけど……イキオークレ・オツボーネ・パイセーン女神様に春がやってきましたので、仕方なくですね……ところで、神種ってなんですぅ?」
「ハハッ、駄女神ほどよく吠える!」
「キャンキャンッ!! って、駄女神じゃないですぅ!!」
両手をぎゅっと握って、抗議するエレガ。
「とにかく」
と、エレガがビシッと指をつきつけ、
「わたしが来たからには、これ以上好きにはさせませんっ!!」
宣言するのだった。
そう。
『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』の真の黒幕は、セーラではなかった。
あくまで、実行犯であり、あくまで、教唆されただけ。
さらにこの事件は『天国』が動く案件であり、たいがいは、『従属神』の『シャドー』で済むのだが、それでも『従属神』の本体が出張るのは、数十年単位で稀な事態。
ましてや、『女神』本人が出てくるなんて、数百年、いや、数千年レベルの珍事だった。
本来、『天帝』たる女神は、『宝物庫』で『ヤバい箱』の『監視』、および、『封印』が主なお仕事。
『箱』の中から『全てを滅ぼす魔』が出ると噂されたいるが、実のところ真偽含め一切不明だが、そこから漏れる瘴気、邪気は、まさに『世界終焉を齎す先触れ』。
外世界からの侵入者に対する切り札『天帝』を速攻で切らねば、瞬く間に、『全ての命が喪われる』ほどの『激ヤバ案件』。
世界はずっと前から『世界終焉事件』に晒されており、いまだに有効な手立てがなく、エレガが地上に降りるということは、それをも上回る脅威がその『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』にあると、彼女の嗅覚が働いたのだ。
決して……
「あっ……『ハコちゃん』の機嫌が良さそう……」
「こ、これなら久しぶりに……地上世界をプラプラできそう……? ちょっと、きいてみよっかな……」
「ふわぁぁぁ……朕は退屈なり。外界で……何か事件は起きていないか……?」
「なに? セファイル王国で貴族たちが連続で殺害されている? 猟奇的? ふぅむ……これは、まさか……! 五千年前の……あの……! これこれ、皆のもの、慌てるでない……朕をだれと心得る。天帝たる朕に任せるが良い(なーんてね……そんな事件しらないもーん。とにかく、これでわたしが出張らないとで大変だってみんなに知ってもらえたね。ちょっと……胸がチクチクするけどね……)」
「なになに? 犯人は王女? ダーキニィがメイド長として潜入捜査?(え? え? メイドさん!? わたしもメイドさんになりたーい! ひらひらの可愛い服を着たいもんっ!) ダーニキィだけでは、戦力が不安。余もメイドコスしてやろう……にひひひひひ! きゃっほー! わたしもメイドさんっ! 可愛いメイドさんになるもんねっ☆ …………って、声にでてたー! み、みんな、なんで、生暖かい目でみるの!? わ、わたしだって、家事くらいできるもんっ!!」
「はわわわっ!! いたっ!! うう……ダキちゃん、教えて……(同じくぎこちない動きでビターンと倒れるダーニキィ)……あ、えっと……ホルくん、わたしたちのご指導お願いしますですぅ!!」
と、エレガは、アクロマギア神殿の家事全般担当のホルスド・ガオンに家事を師事する『エレガ、お嫁修行ガンバる!』もなかなか面白エピソード満載なのだが、紙面の都合で、泣く泣くカットォォォォォォッ!!(従属神五柱の紅一点のダーキニィに師事していないのは、推して知るべし……)。
ちなみに、エレガは、魔法よりも武が得意な『現闘』の達人。
身体の動かし方は、この中級世界では、ぶっちぎりの一等賞。
だが、家事は、まるきしだめだった。
『普通の女の子としての生活』を対価に『世界を守る力を手に入れる』というアリア・ギアスをしたわけではなく、素で家事を前にすると身が竦んでしまう。
それは、エレガが、この世界に転生する前の、第一アルファでの『品星 遊』だった頃のトラウマが関係する。
親は家事を一切せずに、たまにしたかと思えば、それにかこつけた彼女への虐待だった。
わずか2歳で親に殺され、当時の記憶はほぼないのだが、その時の地獄だった日々は、彼女の魂魄に強く結びつき、そのハンデが、彼女をこの世界の天帝に導いたといっても過言ではない。
そして、禁裏様に教えるなど畏れ多いと胃の休まらぬホルスドの懇切丁寧な指導と『壊滅的な家事を少しドジっ娘メイドですませるメイド服』により、何とか出せるレベルまで家事力がアップし、『天国』のパシリの『使徒』のコネを使って、セファイル王国の王宮にドジっ娘メイド、エレンとして、潜入することに成功したのだ。
セファイル王国としては、万年序列一位の精霊国フーマーの『使徒』からじきじきに精霊国フーマー名物『〜古から変わらぬ美味しさ〜リヴァイアサン水饅頭』も渡されて、額に汗びっしょりになりながら、「この尊い……ごくごく平凡な……めが……平民のメイドさんをくれぐれも……丁重に扱うように………何かあったら……アワカッテルネ……デスヨ?」などと懇切丁寧にお願いされたので、それはもう、王族、上級貴族たちの命が10年近く縮んだ。
世間知らずで深窓の令嬢のエレガ様に悪い虫が来ないようにシッシすべくダーキニィ・パラフュームもメイド長ニキータとして潜入し、ホルスド・ガオンも上司への指導の成果の確認とヘッポコ同僚のフォローのため、モノいわぬ、石像として忍び込んで、時にはかわりに家事をこなしていたりした。
『ドジっ娘メイドは、世界救済請負人〜セファイル王国奮闘記〜』もなかなかの抱腹絶倒モノだが、紙面の都合もあり、泣く泣くカットォォォォォォッ!!
……というわけで、エレガたち『天国勢』は、事件を解決すべく、セファイル王国に潜入し、ついに、尻尾を出した真の黒幕と対面したのである。
「さぁ……大人しくお縄についてもらうわ……第3王女、ソレーユ・ティトーノス・セファイルメトスッ!!」
そう。
『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』の真の黒幕は、ソレーユだったのだ。
「くっくっく……さすがは、天帝……世界の絶対最終防壁……実にお見事! わたしが事件の真の黒幕……」
ソレーユは、ビシッとポーズを決めると、
「ある時は、没個性的なセファイル王国第3王女ソレーユ……また、ある時は、『世界のしがない中間管理職』、『ソル』……果たして……その正体は………………」
と、一拍おき、
「超最上級世界の今は亡き『第四アルファ』の名もなき元住人だ…………」
哀しく、そっと宣言したのであった……
今回の二次創作要素(の一部)を紹介!
・イキオークレ・オツボーネ・パイセーン女神様
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
天帝という名の『ヤバい箱』の番人は、前任者を殺すことで交代されるのですが、エレガだけは、前任者から役目を譲られました。
その前任者の名前を二次創作しちゃいました。
・『世界終焉事件』
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
ですが、世界はよくよく終わってますwwww
・精霊国フーマー名物『〜古から変わらぬ美味しさ〜リヴァイアサン水饅頭』
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
・エレガは、魔法よりも武が得意な『現闘』の達人。
『原典』には、エレガが得意な科目は不明!!
・エレガは、家事が壊滅的に苦手。
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
・『第四アルファ』の名もなき元住人
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
『第四アルファ』は、異世界大戦編にて、消滅しています。
、異世界大戦編時点では、ゼノリカの組織は発足しておらず、『九華十傑』の『第四席』は存在していないと考えるのが自然ですが、果たしてどうなのか?




