11話 そ、それは…………●●●●●●が……………………『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』の犯人だからです…………
「させないっ! 『ホーリーダガー』!」
ハルスは手をふると、虚空から聖なる短剣が顕れ、サーナの胸元を貫かんとするナイフを弾く。
「クッ! 剣翼まで扱うか! 忌々しいっ!」
刃と刃のぶつかる火花が一瞬セーラの憎悪に満ちた顔を照らしだす。
ハルスは剣翼でセーラを追撃し、眠り落ちるサーナの前に滑り込む。
「どうして、サーナお姉様を狙うのですか!?」
「それはもちろん…………え? サナ姉様……?」
セーラは唐突に呆然とする。
それはまるで、狙っていたのがサーナではないと遅まきながら気づいたようなチグハグな態度だった。
そして、セーラは、とある方向を向き、心底憎たらしそうに顔を歪め、
「そうか…………そういうことか…………そういうことだったのか………………ううっ……!!」
頭を抱え、呻き出す。
「セーラお姉様!?」
近寄ろうとするハルスをセーラは、手を伸ばして、留めさせる。
「近づくな……今の……うちに……わたしを殺せっ……!!」
セーラは自身を殺すように言うが
「そ、それは……」
躊躇してしまうハルス。
セーラがとある事件の関与を伺っており、その主犯格だと明らかになれば、肉親の情を切り捨て非常な判断をくださなければならないとハルスは分かっていたが、それでも心のどこかでそうであって欲しくないとまだ思っており、その甘さが姉の死、他の人々の死に直結していることもハルスは痛いくらい認識していたがどうしようもないものはどうしようもなかった。
ハルスは公平無比の完璧超人ではなく、ただちょっと中級世界では優秀過ぎたマセガキに過ぎす、もっと上の世界で生まれれば、督脈の15番に劣等感を抱いて、定食屋を経営していた可能性もあるのだ。
「はやく…………間に合わなく……なっても…………知らん……ぞぉぉぉぉ………………………………………」
そんな煮えきらない態度のハルスにセーラは、エリート王子ムーブをかまして急かしていたが、糸の切れた人形のようにガクッと動きを止め………
「…………あはっ☆」
何かキメたかような声を出すと、
「ッッッッッ!?」
その瞬間
セーラの存在値が突如としてありえないくらいに膨れ上がった。
凄まじい殺気のオーラがハルスに向けられる。
本来のセーラの存在値は、30程度だが、今はその10倍の300ほどに上昇している。
現時点のハルスは、デジタル的に細かな数値は分からずとも、双子の姉が圧倒的に存在値を上昇させたのは分かった。
現時点のハルスの存在値は、50ほど。
12年後の『激突!魔王VS勇者』の頂上決戦の時のハルスの存在値が96程度のため、その3倍といえば、その絶望感を分かっていただけるだろうか?
存在値を爆上げする方法として、自身の命を燃焼させる、『絶死のアリア・ギアス』があるが、そこまで上がることはないし、赤いオーラに包まれていない。
そうなると……
「その途方もない存在値の上昇は……これまで殺害していった者たちの魂を使っているのですか……」
他者の魂を取り込むことで、劇的に存在値を上昇させることができると、ハルスは考えていた。
具体的な方法は不明で、仮説の域をでないが、現にこうして目の前にいるということは、特殊な『スペシャル』か『スキル』によるものだろうと判断。
それは事実正しかった。
のだが……
「うわぁ……物騒だね! そんわけないじゃん」
あっさり否定するセーラ。
「わたしまだ5歳児だよ? 人を殺すとか無理じゃん?」
ついさっきまで実の姉を刺し殺そうとした者とは思えない発言だ。
「なんでそう思うの?」
首を傾げるセーラ。
どこからどう見ても純真無垢な5歳の幼女にしか見えなかった。
そんな双子の姉を前にハルスの顔中汗まみれとなる。
ハルスはついに……
「そ、それは…………セーラお姉様が……………………」
それを口にした。
「『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』の犯人だからです…………」
可及的危機的状況により、ハルスはブルースリースペシャル『魂魄鏡』が目覚める。
このスペシャルは、魂魄が可視化するというもので、ハルスにはセーラの全身を覆うように怨霊たちが纏わりついているのが見えた。
怨霊たちの口の動きで何を言っているのかハルスには分かっていた。
『憎い……憎い……憎い……』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
『こ……これでいい……これで……いいのだ……サバーンシュ……ササリー……すまないのだ……』
『………………うう……………や、やっと…………自由に……………』
その怨霊たちは『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』の被害者たちだった。
セーラを取り憑いて殺すというより、まるでセーラの機動力、攻撃力、防御力を底上げするかのように、一つ一つの魂魄が精緻な部品となり、歯車となり、禍々しい鎧となり、凶悪な武器となっているかのように見え、それは、まるで、神が纏うとされる尊き武装兵装だった。
実際は、機動魔法の呪怨形態でしかなかったが、中級世界では、《エグゾギア》も《マシンゴーレム》も知られていない技法だった。
「えーそんなわけないじゃん……証拠あるの?」
セーラにはこれらの魂魄が見えている様子はなく、仮に見えていても、因果関係を認めることはないだろう。
「だって無差別だよ?」
そう。
『連続無差別貴族猟奇的殺害事件』は、被害者が貴族以外、他に共通するものはなく、犯人像が全く浮かばなかったのだ。
「いえ……共通点はあったのです……シーハお姉様を除いて……」
「へぇ、そうなんだぁ」
わざとらしく驚いたように言うセーラ。
ハルスは身を千切れるかのような苦悶の表情を浮かべ、それを口にした。
「被害者の共通点は…………ぼく、ハルス・レイアード・セファイルメトスがかつて窮地を救った人たちだということです…………」
今回の二次創作要素(の一部)を紹介!
・『ホーリーダガー』
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
これが進化して『サテライト・エクスカリバー二式』になったという二次創作。
・ブルースリースペシャル『魂魄鏡』
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
・サバーンシュ
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
サーバンチチ候の息子であり、『とある目的』のために、偽名で『火龍会』に入って幹部になるという二次創作設定あり。
・ササリー
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!
サバーンシュの妹。生まれつき心臓悪かったり、目が視えなかったり、脚が不自由だったりするどこかでみかけたことがありそうな二次創作による哀れな被害者。
・呪怨形態
『原典』には、これっぽっちも登場しませ〜ん!




