2話 俺から離れるんじゃねぇ。何人たりともお前に指一本触れさせねぇよ
「っ……ここは……どこだ……?」
眩いばかりのジオメトリの光が消えると、ハルスたちは違う場所にいた。
転移系罠は、転移先が針のむしろだったり、毒蛇の蠢く穴だったりするのがお約束だが、足元はガッシリとした石畳だ。
「…………どうやら外のようだな……」
先ほどまでいた薄暗いダンジョンとは違い、明るかった。
天を仰げば、建物と建物との狭い隙間から空が見えた。
「試験会場から相当離れてるみたいだな……」
試験会場のあったダンジョンの周囲はジャングルに覆われ、人の文明がある集落まで徒歩で三日は優にかかる。
「まさか、ここから元の場所に戻るのが試験とか言わないよな……」
この試験会場に行くまでが前の試験だったりするわけで、万年落第の中年親父に怪しげな薬をセイラが飲まされそうになったり、小太りのボンボンのぼっちゃんをハルスがからかってセイラにたしなめられたり、ツルピカ禿●君とハッ●リ君が融合したような東方出身の忍が黑ギャルの『シグレ』をナンパして、機動魔法『エグゾギア』に身を包んだ『ゼン』にどつかれかけたり、『ニー』、『カース三兄弟』がトランプ●ンみたいな奇術師に「100点♡」と褒められたり、セイラが危うく地面と一体化したモンスターに呑み込まれかけたのをハルスが間一髪で助けたり、『ゼン』がトランプ●ンみたいな奇術師に『2点♣』と評価され「おれは銃を持ったおっさん以下なのか……ぶつぶつ」とぶつぶつ言ったり、セイラが人間に擬態したモンスターに騙されて連れさらわれようとするのをハルスが間一髪で助けたり、色々と面白エピソードがあるが、今は関係ないので、丸々カットォォォォォォ!!
「まぁ、そんな『常識的に考えたらありえないこと』こそが『冒険者試験』だったりするから、一概に『その可能性』が捨てきれないところがこの試験の怖ろしさでもある……しかし、ここ、どこだ……? 『南の魔大陸』なんてことはねぇよな……いや、それならそれで『渡る手間』が省けるが今はまだ『その時』じゃねぇ……決戦用『魔カード』に魔力を注ぎ始めたばかりだしな……ん?」
ハルスは、セイラの怯えた様子に気がつく。
「ぁ……ぁ…………」
『冒険者試験』の『第一次試験』では、転移のジオメトリにより、『パラソルモンの地下迷宮』の奥深くへと転移させられ、地獄を見させられた。
それがトラウマになっているのだろう。
「俺から離れるんじゃねぇ。何人たりともお前に指一本触れさせねぇよ……」
我ながら臭い台詞だと自覚しつつ、こういう物言いがセイラの心の安定に繋がることをハルスは認識していた。
セイラの心の安定がセイラの身の安全につながり、ひいては、ハルスの命を保証する。
ただそれだけでしかない。
それ以外の意味は決して持たない。
持つわけがない。
しかし――――――
「ぅ……ぅぅ……」
セイラの震えは一向に収まらない。
ハルスもふと何かがおかしいと気づく。
「…………なんで、俺がセイラを『見上げ』ているんだ……?」
ハルスは17才。セイラは10才。
見上げるのはいつもセイラだった。
なのに――――――
今はハルスが見上げていた。
「無理やり成長させられたのか――――!?」
成長を促されるのが『呪い』にあたるのか、『祝福』に当たるのか、判断は人によって異なる。
身体の出来上がって来ないセイラにとって、成長した結果はこと『冒険者試験』において、有利に働くと思われがちだが、成長する期間にこそ、『冒険者』にとって必要なノウハウ、技術、経験を身につける大事な機会だ。
『身体の習熟』ではなく、『経験の習熟』を『冒険者』は重視するのだ。
また、急激な成長は意識と身体の同期がチグハグになり、普通に動きが悪くなる。
慣れる頃には『冒険者試験』はとっくのとうに終わっている。
しかし、そもそも、セイラが成長したからといって、ほぼ身長が伸びなくなった17才のハルスが見上げるような巨大女になるのだろうか?
「ま――――――まさか――――――逆に俺が――――――ぎゃふんっ」
セイラに向かって走り出した足がもつれて、ハルスは転んでしまう。
(完璧超人の俺が無様に転ぶなんてありえねー……やはり――――――これは――――――)
「だ、大丈夫……?」
心配そうに声をかけるセイラ。
そして、どこか警戒の色を潜ませてこんな質問を投げかけたのであった。
「ところで……君、だれ……?」
ハルスは確信する。
『逆成長』させられたのは、自分自身であると。
要は、若返ったのだ。
背の感じから5才くらいに。
「いやいやいやいや、5才児になにができるっちゅーねんっ!」
と、黒ギャルの口癖を真似て、自分自身に突っ込むハルスであった……
舞散「ははっ、たかが5才児に何ができるっていうんだろな? クレヨンし●ちゃんじゃあるまいし、マジで作者は『現実』をわかってないな……」
MrZ「そうでちゅね。『現実』は、せいぜい世界を何回か救う程度の軽作業しかできないでちゅね……」
業「軽作業とかエッッッグゥゥゥ!! 何度心が灰になりかけたことか……だが、惚れた女のために世界を滅ぼす程度の雑魚に負けるわけにはいかないな……」
大工の「世界救うとかエッッッグゥゥゥ!! けど、惚れた女のために、サクッと命をかけるくらいどうってことないけどな……」
頭イ●れガールズ「「うん、知ってる////////」」
殿下「でちゅって。オイちゃんのピンチに駆けつけてくれる都合のいいへちゃむくれの弟子とかいないでちゅかね……」
舞散「顔のことはヤメてっ!! ホントに落ち込むからヤメてっ!! まぁ、惚れた女のために究極超神と200億年かけて死闘を繰り広げる程度なんて朝飯前(はじめは死ぬほどエグかったけど、最後は意外とそうでもなかったなドンッ!!)だったけどな……ははっ……」
殿下「そ、そういうとこが//////」
舞散「え?なんだって?」
狂信者「(ええいっ、もどかしい……)主上様……お耳掃除の時間です……」
舞散「またか……一日に何回も耳掃除してる気がするんだが……」
狂信者「気のせいです」
舞散「お、おぅ……」
殿下「ソレ貸してくだちゃい。えいっ。『神聖剣気、ランク2500』」
舞散「ギャー!」