1話 俺はお前の騎士。お姫様みたいに大人しく守られてりゃいいんだ
――――冒険者試験の第?次試験のとあるダンジョンにて――――
「ハルス……!」
ボワッと床に浮かび出た幾何学模様のジオメトリに10才ほどの肩まで伸びるプラチナブロンドヘアーの容姿の整った美少女、セイラが囚われる。
彼女の叫ぶ先には彼女が慕う青年、ハルスが手を伸ばしていた。
「セイラ……!」
(ちっ……また、このパターンかよ……!)
ハルスは、ジオメトリのパターンから、攻性罠魔法ではなく、どこかに転移させるものだと気づく。
ハルスとセイラは他に二人組とパーティーを組んで冒険者試験に臨んでいたが、転移のジオメトリで次々とはぐれていってしまった。
ダンジョンの敵は『これまでの試験』と比べれば、ヌルいが、『精霊国フーマー』の東方出身と目される『シグレ』とはぐれたことで、セイラの身をガードしていた召喚獣のスライムの『ニー』もいなくなり、駆け出し魔法使いのセイラだけでは、対処が難しい。
(5年後なら単独でも大丈夫だろうが、今はまだ、無理だ!この糞ムカつく女なんかそこらのモンスターの餌になっても何ら構わねぇが――――――)
ハルスは心の底からセイラが死んでも構わないと思っていた。
いや、即効で死ぬべきだと断定する。
まだ、なんの力も持たない、辛い過去しかない、元奴隷少女など、一秒でも早く死ぬべきだ、と。
(死なれたら俺が困るんだっつーのっ!)
しかし、最強召喚士ラムドにかけられた呪い『カースジェイル』により、『ご主人様』であるセイラが死ぬとハルスも死ぬことになり、何としてでもセイラを救う必要があった。
ハルスは駆け出す。
人類最強勇者の称号は伊達じゃなく、あっという間にセイラとの距離を詰めるが――――――
「ハルス、来ちゃダ……」
セイラが目に涙を湛え、『命令』しようとするが――――――
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
ハルスは鬼のような形相でその言葉を止めようとする。
『カースジェイル』により、ハルスはセイラの『命令』に絶対遵守せざるを得ない。
そのため、その『命令』は、絶対にきけない。
「………ぅぅ………」
冒険者試験での転移のジオメトリは、セイラにそれなりに地獄を見させた。
あの時は『みんな』がいたため、辛うじてクリアできたが、今は二人だけだ。
セイラ自身の命よりも『大事な人』を巻き込むわけはいかない。
「―――――間に合った―――――っ!」
セイラを守るように全身で包むハルス。
「ふぅ……手間かけさせんな…………」
セイラを見ると、
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
震えていた。
セイラは、『ハルス、来ちゃダメ』と言おうとしたが、結局、最後まで言えなかった。
ハルスの身の安全よりも、ハルスと離れるのが何よりも怖かったからだ。
そんなセイラの胸中に気づいたのか、ハルスは、
「ちっ……謝んな……俺はお前の騎士。お姫様みたいに大人しく守られてりゃいいんだ……」
「うん……」
泣き止んで微笑むセイラにハルスは、顔を背け、
「今のは、『羞恥のアリア・ギアス』って、一日一回恥ずいことを言うと、何かいいことがあんだよ……」
という言い訳は、ジオメトリの光に溶けていった……