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開けて翌日。昨夜は変に疲れて魔力操作の訓練もそこそこに早めに寝たので体調は万全だった。領主様は眠そうにしてたけど・・・・・
朝食後は延期になっていた収穫祭の開会式だ。領主様が僕を武術指導員としてバレリー領に迎えると紹介して貰った。勿論誤解の無いように婚約者がお嬢様とは別にいるともだ。
まぁ一部不満そうにしている人もいるけど、婚約者は使徒様の娘だと聞いて一応納得してはくれているようで良かった。
その後はお嬢様との約束。二人で収穫祭を見て回った。あ、二人きりって訳じゃないですよ。メイドのお姉さんと衛士四人に囲まれてです。
街の南側をぐるっと回ったがお嬢様の人気が凄い。領民達は陽気な人が多くてやたらと声を掛けられ、お嬢様もそれに答えていた。
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「よう、お礼参りにでも来たのか?クックックッ・・・・・」
「そんな下らねぇ真似するか。今日は大陸の移動が無事済んだ報告と・・・謝罪に来た。俺が間違ってた、すまん。家に帰って冷静に考えて見りゃお前の言う通りだった・・・アレスが逝っちまって如何かしてたんだ・・・・・いい訳にもならねぇが」
「五百年近くも共に過ごした仲間が逝っちまったんだ、仕方ねぇさ。俺だって師匠を殺しちまった時に荒れたしな・・・・・」
「お前・・・・・」
「ああ、気にすんな、昔の事だ。なんだかんだ言っても、結局自分の中で折り合い付けて消化するしかねぇのさ」
「そう、だな・・・・・有難う、ジン」
「止めろ止めろ、お前らしくねぇ。つーか気持ちわりぃ」
「クックックッ・・・そうだな俺らしくねぇな。ハハハハハ!」
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「あ~、酷い目に遭ったわ」
「あたいは看病が出来て楽しかったけどな」
「最近余り身体を動かしてなかったせいだから自業自得なんでしょうけど」
「時々休みの日にあたいと組み手でもした方が良いんじゃないか?」
「そうかもしれないわね・・・・・」
「どうした?まだどっか痛いのか?」
「そうじゃないわよ・・・まだあたしの事黙っておいて貰える?」
「そりゃ構わねぇけど、何でだ?」
「結局あたしがハンスだと名乗らなくても今の所問題無いじゃない。だからその時が来るまで黙ってようかなって」
「・・・・・解った。お前の好きなようにすると良いさ」
「有難うフォルマちゃん」
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「お~い、メイリー、お客さんだぞ」
「は?あたいに?」
「メイリー!やっと見つけたぞ!!」
「げっ!ラスティスじゃねぇか!来んじゃねぇ!!」
「そ、そんなつれない事言わないでくれ・・・君だけを思って三十年も探したんだ・・・・・」
「キモっ!それが迷惑だって何回言ったら解んだよ!兎に角帰ってくれ!あたいは里に戻る気はねぇんだよ!!」
「な、何故だ!僕は次期長になる事が決まって―――」
「てめぇらがあたいに何をしたのか忘れたなんて言わせねぇぞ・・・・・魔法が使えないあたいを出来損ないだと追い出したのはその長じゃねぇか!ふざけんな!!あたいはその排他的な所が大っ嫌いなんだよ!!」
「だが僕の妻になれば君を蔑む奴も居なくなる。冒険者から君の噂を聞いた。『逃げ撃ちのメイリー』なんて不名誉な名を付けられる事も、こんな所で給仕なんて下僕のような仕事をする必要も無くなるんだ」
「あ?てめぇ・・・何も解ってねぇじゃねぇか!あたいの二つ名は大勢の仲間を救って来た名誉の称号なんだよ!!その人族はエルフより劣っているって考え方も気に入らねぇんだ!とっとと帰りな!!でないとその頭撃ち抜くぞ!!」
「メイリー下がってな」
「ブルート・・・皆も・・・・・」
「おい、兄ちゃん、聞き捨てならねぇ事言うじゃねぇか」
「俺たちゃ何度もメイリーの弓に助けられてきてんだ、恩返しが終わる前に連れてかれちゃ困るんだよ」
「客じゃねぇならとっとと帰りな、仕事の邪魔してんじゃねぇよ」
「あんたみたいな奴を泊める部屋なんてないから出て行け!」
「営業妨害するなら衛士隊呼びますよ?」
「クッ・・・短命種が・・・・・」
「ハッ!この宿は神様から授かってんだ。俺達が死んでもメイリーの居場所はなくならねぇから諦めて帰るんだな」
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夕食時に領主様が商業組合に問い合わせして下さったそうで、候補を見繕って二、三日中に知らせてくれると言われた。
「有難う御座います」
「気にするな。我が領地に迎えるのだからこれ位はせんとな。それより収穫祭は楽しんで貰えたかな?」
「はい。皆気さくに話しかけてくれて直ぐに馴染めそうです」
和やかな時間が過ぎていく。収穫祭二日目もお嬢様と回り、商業組合から連絡が来て三日目の午後に組合に行く事になった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




