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「ふむ・・・では、私の方で下級貴族程度の屋敷を用意させよう。そこに屋内外で訓練出来る場所を設えれば良かろう?」
「有難う御座います。代金は残りのトロールやオーガを売ってお支払いします」
「では明日にでも・・・いや、明日から収穫祭をやり直すのだったな。その後でもよいか?」
「勿論です。僕の都合で領地の予定を崩す訳には参りませんから。それにしてもやり直すんですね、収穫祭。僕は中止になるのではと思っていました」
「中止には出来んよ。領民達の楽しみを奪う訳にはいかん。この一年、皆それだけの働きをしてくれたのだからな」
本当に良い領主だなと感心しながら会談も無事終わり、執務へ戻る領主様と別れて以前使っていた客室で本を読んで過ごした。
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「初めまして、マルスの父のゲイルと言います。こちらは妻のミーナです。お師匠様にはマルスがお世話になっていると言うのにご挨拶が遅くなって申し訳ありません」
「俺はジンでこっちが妻のマリーベル。で、そっちが娘の鈴華だ。まぁ、堅苦しいのは無しにして楽にしてくれ。挨拶の方は俺から断ってたんだし気にする事はねぇよ」
「有難う御座います。それで今日の来訪の理由なのですが、息子がお嬢様とお付き合いをしているようでしたので、その確認と今後について話し合いたいかと」
「確認も何も当人同士の事だ、好きにさせるさ。勿論まだ未成年だから結婚するにしても成人してからだし、条件も付けさせて貰ったけどな」
「条件・・・ですか・・・・・」
「あ~、勿論無理難題は押し付けちゃいねぇよ。ちゃんと養って行けるだけの定職に付けって言っただけだ。マルスは今就職活動に行ってるって訳」
「そうですか・・・・・」
「ん?何か問題でもあるのか?・・・ああ、ガーランドの家を継いで欲しいとかか?」
「・・・・・長く続いた家系ですので・・・可能であればですが、本人にその気は無いようですし・・・・・」
「別に貴族で領地とか持ってる訳でもねぇんだし良いんじゃねぇの?途絶えても。俺も表向きは領地持ってる事になってるけど、俺の死後は領地を任せている伯爵家に譲る事になってるしな。あいつ・・・パンドラだってそんな事気にするような奴でも無いだろ」
「それはそうですが・・・陰ながら御守りする事が私達ガーランドの名を継ぐ者の役目ですので」
「・・・・・それが良くねぇんじゃねぇの?あいつに必要なのは家臣じゃなくて理解者だと思うけどな。一人の人間として扱い共に笑い泣く、友人や家族的な存在が必要だと思うぞ。あいつと付き合ってみて俺はそう感じたがなぁ」
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「お兄様。周辺海域が安定しました。もう問題無いと思います」
「魔導機器も問題無く稼働してるぞ」
「そうか・・・・・二人ともご苦労さん。もう好きにしてていいぞ」
「では、一緒にお茶を飲みましょう。ディアナはお茶菓子を用意して」
「はいよ。置いといたパウンドケーキが良い感じになってる筈だし切って来るよ」
「ん?お前等ケーキとか作れんのか?魔法で出したとかじゃなくて?」
「あれ?兄ちゃん知らなかったのか?お菓子はあたいが作ってんだ」
「食事とお茶は私ですが、お菓子作りは苦手なんです・・・・・」
「そうだったのか・・・・・」
「ほら、あれだよ、ライラ姉ちゃんが新婚旅行で買って来た料理本。あれ読んで覚えたんだ」
「アスタルお爺様とミランダお婆様が私達の作った料理が食べたいとおっしゃって・・・・・」
「アスタルとミランダが・・・ああ、そういやライラとケントが転生してたんだ・・・マルスと鈴華の二人でな・・・・・もしかしたら、アスタル達も生まれ変わってるかもな」
「まぁ!ライラお姉さまとケントお兄様が!」
「だったらアスタル爺ちゃんも生まれ変わってるかも・・・爺ちゃん・・・会いたいなぁ・・・・・」
「何時か会えたら成長した姿を見せてやるといいさ。俺た達ゃ寿命なんて無いんだろうしな」
「そうですね・・・・・」
「だよね、何時か会えるよね・・・・・」
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昼食時に領主御一家に改めてお世話になりますと挨拶をした。お嬢様とも明日からの収穫祭を一緒に回ると約束を交わした。
そして領主様に個人的な話が有ると言われ、食後に応接室で二人きりで話をする事になった。
「済まんな。其方に頼みたい事が有るのだが・・・・・」
なにやら神妙な面持ちで話し始めた領主様は―――
「領主様からの頼みでしたら大抵の事はお受けしますが?」
「いや、領主としてではなく私的な事なので断ってくれて構わんよ」
「ん?領主としてではなく、エルドラ・バレリー個人としてですか?」
「それも、違うな」
「え?」
「アスタル・ベルトラムとしてパンドラ殿にお会いしたいのだ。英雄レイル・ガーランドの子孫よ」
「なあっ!」
にやりと笑い、とんでもない告白をした。
まさかここにも一人転生者が居たなんて思いもせず、しかもそれが前世の主君で、今世でも主君になるなんて驚きを通り越して運命を司る神の存在を信じずにはいられない僕だった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




