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怖い、師匠が僕に初めて『朧』を見せた時の何倍も怖かった。スズちゃんを溺愛し、訓練時でも声を荒げる事等無かった師匠の本気の怒りがその場を支配していた。
「お、おい、ジン・・・そこまで怒らんでも良いだろ。鈴華はライラの生まれ変わりなんだからよ」
「あ?だから何だってんだ?前世は如何あれ今は俺の娘だ。無関係の奴が口出すんじゃねぇよ」
「無関係だぁ?ライラは俺の娘だ!無関係なんかじゃねぇ!!」
「だから前世の話すんじゃねぇって言ってんだ!てめぇもあの錬金術師と大差ねぇじゃねぇか!何時までも過去に縋り付きやがって!現実をしっかり見据えろや!!」
「おうおう、この俺様に大層な口利くじゃねぇか。誰が過去に縋り付いてるって?舐めた事言ってんと、てめぇもやっちまうぞ?」
「ハッ!てめぇこそ舐めた口利いてんじゃねぇぞ・・・鈴華の前にてめぇから教育してやろうか?」
ちょっ?!師匠、ついさっき錬金術師が如何なったか見てたでしょ?!パンドラさんに喧嘩売って敵認定されたら・・・・・
「やれるもんなら・・・グアッ!・・・・・ぉ・・・あ、な、なん・・・・・ガアッ!」
えっ?!パンドラさんが殴られた?
「てめえ等精神生命体の弱点は把握してんだよ、ボケが・・・そしてこの距離で戦うなら俺は絶対ぇに負けねぇ!俺に勝ちたかったら俺の感知範囲外から魔法でも打ち込んでくるんだなぁこのド素人が!!そん時ゃチキン野郎って呼んでやっからよぉ!!」
「グアアァァ!!」
な、何だこれ・・・これが『朧』の最終形態?・・・一方的にパンドラさんが殴られ続けてる・・・師匠の気配が途切れ途切れで動きが全く読めない・・・・・これが・・・これが武の頂点・・・・・師匠の本気か・・・・・
「やめてええぇぇぇ!!父様もうやめて!!私が悪かったの!だからもうパンドラ様を傷付けないで!!ごめんなさい!ごめんなさい!!もう許してええぇぇ!!」
「・・・・・鈴華も反省したみてぇだし、これ位で勘弁してやる。暫くは動けねぇだろうし、そのままそこでよく考えるんだな。聖下、お見苦しい所をお見せして済みませんでした。それでは失礼します」
「あ・・・いえ、お気になさらず・・・・・」
「鈴華、マルス、お暇するぞ」
「「は、はい・・・・・」」
スズちゃんの涙を拭いてあげながら応接室を出て師匠の家へと向かった。無言で前を歩く師匠の背中が途轍もなく大きく見えた。
神の如き〝力〟を持つ者を一方的に屠る男に挑戦する。そんな無謀極まりない事をしようとしている僕は、今自分の頬が緩んでいる事に気が付いていなかった。
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「パンドラ様、お身体の方は大丈夫なのでしょうか?」
「・・・ああ・・・・・あと少しで・・・完全に回復するから・・・心配はいらねぇよ・・・・・」
「恐ろしい方ですね・・・ほんの僅かな切っ掛けと時間だけで完全に自分の物にしてしまうなんて」
「あん?なんだ、如何言う事だ?お前、確かラインハルトの娘の―――」
「お久し振りですね、パンドラ様。セレネに御座います」
「ハッ!お前も転生してたのかよ。あれか、聖都の結界はお前の仕業か」
「はい。この日の為に事前に色々と準備しておきました。それとジン様に精神生命体の弱点をお教えしたのも私になります」
「余計な真似しやがって。お陰でえらい目にあったじゃねぇか」
「余計な事でしょうか?今、パンドラ様の事を心配し、叱る事の出来る方は貴重ではありませんか?お気づきで無かったのですか?ジン様は手加減なさってたのですよ?その気でしたら強力な魔力を打ち込んで一気に片を付けていたでしょうし」
「・・・・・ハァ・・・帰って頭冷やすわ・・・それじゃ」
「はい、また何れ」
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師匠の家に帰った僕達は師匠の私室で向かい合って座っていた。
「さて・・・鈴華、お前は一週間の自宅謹慎だ。外出は一切認めない、いいな?」
「はい・・・勝手に出て行ってごめんなさい・・・・・」
「よし。次は・・・マルス、隠蔽魔法だか迷彩魔法か知らねぇがそいつを解け」
「え・・・・・いや、その・・・・・」
「そんなもんで自分を偽ってたら本心が聞けねぇだろ。いいから解けや」
「・・・はい・・・・・」
僕の本心が聞きたいと言う師匠に答え、僕は隠蔽魔法を解いた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




